日々の業務でデータから得られる情報を誰かに伝える場面は多くあります。

ただし、どうやったらわかりやすく伝わるか考えたとき、ただ相手に数字を見せて自分の考えを力説するのは有効ではありません。データを初めて見る人にも、概要が理解できるようグラフや表といった形式に加工し、可視化したデータから直感的な理解を促すことが重要です。

近年身近になったビッグデータにおいても、データを可視化するのは大切です。”BIツール”の誕生で、非データエンジニアのビジネスパーソンでもビッグデータを可視化し、意思決定に活用できるようなりました。

本記事ではBIツールの必要性やメリット、代表的なツールを3つ紹介します。

BIツールがどのように意思決定に役立つのかを理解し、自社のビジネスに活用しましょう。

BIツールとは?特徴や基本機能のまとめ

BIツールのBIは、”ビジネス・インテリジェンス”の略です。データを分析して得られた結果をビジネス上の知見として、意思決定に活用できます。

BIツールはデータの分析と可視化の2つの機能がメインです。ツールが対応するデータソースからデータを読み取り、データ元のツールでは対応が難しいデータの可視化をサポートします。

BIツールは多くのデータソースに対応しています。しかし各データソースから個別にBIツールへ連携するのではなく、社内のデータを一度DWH(データウェアハウス)へ統合して分析用にデータを整備し、そのDWHとBIツールを連携して使用するのが一般的です。

従来のBIツールはSQL(データの操作に使用する言語)をはじめとするデータエンジニアリングの知識が必要でしたが、近年のBIツールは画面上の設定や直感的な操作でもデータの可視化ができるようになりました。

また中長期的な経営戦略だけでなく、短期のミクロな意思決定においてもデータの重要性が高まったことでBIツールが広く利用が進んでいます。

BIツールの必要性|Excelには果たせない役割とは

以前よりデータの分析・可視化にはExcelが用いられていました。

ただしExcelには処理能力に限界があります。業務で扱うデータ量が増えると、Excel上での処理が難しくなり、分析・可視化に特化したBIツールが求められるようになりました。

またExcelと違い、BIツールにはデータの加工・編集機能がありません。

データ分析は、

  • ①元データの用意
  • ②分析用に加工・整形
  • ③分析・可視化

の手順が一般的ですが、①〜③を浅く広く行えるのがExcel、③に特化したのがBIツールです。

BIツールを利用したマクロなデータ分析により、従来のExcelを利用したミクロな分析では見つけられなかった微小な傾向の発見や精度の高い予測が可能になりました。

たとえば、統計分析の手法のひとつに医療分野でも取り入れられることの多いロジスティック回帰分析というものがあります。商談の成否のような、結果が0か1になる確率をデータから予測する手法ですが、Excel標準の機能ではこの手法に対応していません。

Excel上でもまったく不可能なわけではありませんが、BIツールの多くはロジスティック回帰分析などの高度な統計手法にも対応しています。結果の読み方さえ理解していれば、画面のクリックだけでこれらの分析が利用できます。

BIツールはどんなシーンで使えるの?

全社的な経営判断から現場での短期的な判断まで、BIツールはデータの説明資料として意思決定に役立てられるとともに、大規模なデータから概要を把握するためのわかりやすいダッシュボードツールとしても活用されています。

以下はその一例です

  • セールス
    • SalesforceのようなSFAツール上のデータと連携し、商談の進捗や成否をグラフ化してリアルタイムでチームに共有する
  • マーケティング
    • ある製品の売上と販促キャンペーンのデータからキャンペーンの施策効果を予測する
  • エンジニアリング
    • プロジェクト全体で発生する開発コストを一枚のダッシュボードにまとめて日々の予実管理に活用する
  • Excelからの移行
    • BIツールの機能を利用し、これまで手動で行っていたレポート作成を自動化

BIツールを導入するメリット

BIツールは、専門的な知識がなくともビッグデータに対して高度なデータ分析が可能になる点が最大のメリットです。また小規模なデータの分析にも、BIツールは役立ちます。

データの多寡を問わず、データ分析の場をExcelからBIツールへシフトさせることで、以下のような意思決定上のメリットが得られます。

データの収集・分析にかかる時間を短縮できる

Excelを利用したレポート作成は、オペレーションしやすいとはいえ、作業の度に人の手でデータを更新する必要があります。Excelの機能であるマクロをフル活用したシートであれば、シートの作成者以外は安易にシートに触れません。

一方、BIツールの活用で日々のレポート作成を自動化できるうえに、定常的に発生していた作業コストのカットが期待できます。データの絞り込みなどの各種設定も、複雑な関数を使わず画面上のクリックで済むため、ほかの人もレポートの構造が理解しやすいです。

意思決定上のボトルネックを解消し、データの分析結果の解釈という真に価値ある部分にフォーカスできるようになります。

営業などの状況をリアルタイムで正確に判断できる

ビジネスでは日々目まぐるしく状況が変化します。鮮度の落ちたデータに基づく分析では得られるBIの鮮度も落ち、意思決定上のリスクが高まります。

BIツールは一度データソースとの接続が確立すると、自動でデータをアップデートし、ほぼリアルタイムに近い精度でデータを可視化します。これにより、最新の状況や最新のデータに基づいた分析が容易になり、状況の変化に応じた柔軟な意思決定が促進されます。

また商談やプロジェクトの進捗、取り組んでいるタスクなどのデータを可視化することでチーム内でスピーディーに情報共有できます。

企業活動の成長を促進させるためには、情報の鮮度が命です。素早く最新の情報を取得できるBIツールは今後の企業活動の意思決定において欠かせない存在となるでしょう。

BIツールを導入するデメリット

メリットがある一方で、BIツールは導入にあたって押さえておきたいデメリットも存在します。デメリットを認識しないまま、ただExcelの代替ツールとしてBIツールを導入すると十分に機能を活用できない可能性があります。

いずれのデメリットも運用上の工夫で対処可能ですが、BIツールの導入を検討する際はこれらのデメリットをどのように処理するかも考えておきましょう。

導入する際の手順が複雑でわかりにくく失敗しやすい

BIツールはデータの可視化に特化しており、データの編集まではできません。

Excelで実行していたフローを単純にBIツールで置換すると、分析用のデータ整形ができず、未整形のデータを分析に使うためBIツールの機能を十分に活かしきれない可能性があります。

失敗しないためにも、BIツールの導入に併せて以下のようなデータ分析用にデータを加工するプロセスを新たに設ける必要があるでしょう。

  • データ分析用のデータの規格を定めておき、各部門からはその規格にしたがってデータを提出してもらう
  • DWHへデータを統合し、DWH上でデータを整形する

データ加工のプロセスの必要性を認識しないままBIツールを導入すると、結局データ加工をExcelでやってしまい、このプロセスでコストが発生するなどの失敗に陥りがちです。

データの高速処理に長けたDWHも同時に導入するのが有効で、各種データをDWHへ統合、DWH上で分析用に加工し、「BIツールと連携させる」フローを整えるとBIツールを有効に活用できます。

部署ごとにデータの行き違いが起きて非効率になる恐れがある

BIツールを導入すると社内の各部署・部門でデータが可視化されます。このとき同じデータを用いて複数のグラフが作成できるようになるため、BIツールを用いた分析の結果にも違いが生まれるケースがあります。

たとえばセールスとマーケティングでは、見込み顧客に対する仮定が異なることがあります。

売上と関係する要素を見つける目的は一緒にもかかわらず、

  • セールスは売上と顧客の性別
  • マーケティングは売上と顧客の年齢

とを結びつけて分析したために、鍵となる要素の解釈がブレて意見が行き違ってしまうなどのケースです。わずかなデータの行き違いでも、企業活動の方針を見誤るなど大きなリスクとなりかねません。

容易なデータ分析が可能だからこそ、部署・部門間でデータに対する解釈を統一するコミュニケーションが重要になります。どのマスターのグラフを信頼するかなど運用上のルール決めも必要です。

BIツールはいらない?導入に失敗しないための確認項目

BIツール導入のメリットを最大化し、デメリットを最小化するには導入の前に確認しておきたい項目があります。検討の結果、BIツールの導入を見送ったほうが良いというケースもあるため、ひとつずつみていきましょう。

導入する目的や解決したい課題が明確になっているか

BIツールは便利なツールですが、ツールそのものに使い方が明確に決まっているわけではありません。ユーザー側で活用方法を考える必要があるツールです。

  • 処理するデータ量が増えてしまい、Excelを用いた既存のデータ分析フローでは処理が困難
  • データ分析をサポートするデータエンジニアに負担がかかりすぎていて現場の需要に対して手が回っていない
  • ビッグデータを意思決定に活用したい

これらの目的や課題が明確でないままBIツールを導入しても、結局誰も活用できずに導入コストが無駄になってしまうおそれがあります。自社の抱える課題を整理し、BIツールの必要性に疑問が生じた際は導入を見送ったほうが良いかもしれません。

導入した後の具体的なイメージができているか

BIツールの管理や運用体制、また既存の分析がどう改善されるのかなど、導入後のイメージも明確にしておくことも重要です。

解決したい課題が明確であっても、運用面でのイメージがないままBIツールを導入すると運用が軌道に乗るまで時間がかかったり、課題の解決に至らなかったりなどのおそれがあります。

とくに重要なのがExcelとの使い分けです。

データ分析のフローのうち、

  • どこまでをBIツールでやるのか
  • どこまでをExcelのままにするか
  • Excelの利用はすべて止めるのか

などを考えておくことで、ExcelとBIツール両者のメリットを生かした運用体制ができます。

導入して活用するための体制が整っているか

データ分析はデータを分析するまでのデータエンジニアリング、分析結果を解釈するデータサイエンスの2つの要素が重要です。

BIツールはこのうちデータエンジニアリングのハードルを下げ分析をサポートしますが、その機能をフルで活用するには、データサイエンスのノウハウを活かした応用的な分析が必要になります。

たとえば、自社セミナーへ申込みをしてくれた顧客に対し、セミナー前にリマインドのメールを送信が顧客のコミットメントにどの程度影響するか分析するケースを考えます。

メール送信の有無をダミー変数として0 or 1のデータに変換して分析に使用する必要がありますが、ユーザー側がダミー変数の概念を理解してデータを整えられなければBIツールも分析が行えません。

内容はともかく膨大な量のデータを簡単に分析することが目的で、高度な分析はとくに考えていなくても問題ありません。

将来的に高度な分析を見据えているようであれば、社内にデータサイエンスのノウハウがあるかもチェックしておきましょう。

まだそのノウハウがなければ、データ人材の獲得や、社内勉強会の開催などの対策についても検討が必要です。

代表的なBIツール

ここでは代表的なBIツールを3つ紹介します。

いずれのBIツールもユーザーの直感的な操作でデータの可視化が可能なように設計されていますが、データの分析・可視化をサポートするオプション機能を豊富に備えています。

Looker

LookerはGoogleが提供するBIツールです。

後述のLooker StudioもGoogle提供のツールですが、LookerのほうがBIツールとしての機能にくわえてデータ分析の運用をサポートする機能を備えています。

それが独自のモデリング言語であるLookMLです。
Look MLは設定データのように利用でき、データエンジニアが事前に形式や集計方法をLook MLで指定しておくことでユーザーはその設定に基づくデータを使い回せます。

ユーザーは共通のデータを利用し、ユーザーごとのデータ定義がブレることがありません。分析・可視化の結果もブレずに一貫したものが得られるため、大企業でもトップから各部門の責任者、さらにその先までデータの一貫性を保持できる点が魅力のツールです。

Looker Studio

Looker Studio(旧:Googleデータポータル)はGoogleが提供するBIツールです。

Google提供であるため、GoogleサーチコンソールやGoogleアナリティクス、Google広告などのGoogle系サービスとの連携を得意としています。そのほかにも海外サービスを中心に各パートナー企業が開発したコネクタにより、600以上のサービスと連携が可能です。

最大の特徴は利用にあたって料金が発生しない無料のツールという点です。

高額な導入コストが発生する前に、「とりあえずBIツールを試してみたい」という方はLooker Studioを利用してみてはいかがでしょうか。

Tableau

Tableauは比較的後発のBIツールですが近年多くの企業で取り入れられているBIツールです。

データ分析・可視化を担う「Tableau Desktop」のほかに分析前のデータ加工を行う「Tableau Prep」や、作成したダッシュボードを共有する「Tableau Online」などトータルにデータ分析をサポートする機能を備えている点が特徴です。

またユーザーコミュニティが活発で、日本コミュニティも存在します。

Tableauひとつでデータ分析のサイクルを回せるようになるため、多少のコストがかかっても高機能なツールを使いたいという方はTableauがオススメです。

Microsoft PowerBI

Microsoft Power BIはMicrosoft提供のBIツールです。

Looker StudioがGoogle系サービスとの連携を得意としているのに対して、Power BIはWordやExcelなどのMicrosoft系サービスとの連携を得意としている点が特徴です。

Excelとの親和性が高く、Excelデータをデータソースとして使用することも可能なため、Excelを中心とした従来の分析フローから移行しやすいBIツールです。

すでに社内でMicrosoft系サービスを活用しており、Excelの延長としてBIツールを取り入れたい方はPower BIが最適なBIツールになります。

まとめ

本記事ではBIツールの必要性や導入前にチェックしておきたい項目について解説しました。

自社のデータ活用をさらに進めるにはBIツールの導入が欠かせません。

この機会に自社のデータ分析体制を見直し、BIツールを中心に誰でもデータを意思決定に活用できる体制へシフトしてはいかがでしょうか。

弊社が提供する「データ分析基盤構築サービスtrocco®」は、BIツールで分析するまでのデータパイプラインの構築を、ほぼノーコードで実装可能です。社内に散逸する各サービスのデータをひとつのDWHへと集約し、DWHとBIツールを連携させることでデータパイプラインの管理・運用もしやすくなります。

BIツールを利用したデータ分析の工程だけでなく、社内のデータマネジメントもノーコードでやってみたいという方はぜひご相談ください。

また、trocco®ではクレジットカード不要のフリープランをご案内しています。ご興味がある方はぜひこの機会に一度お試しください。

hirokazu.kobayashi

慶應義塾大学卒業後、2014年より株式会社リブセンスへ入社。データエンジニアとして同社分析基盤立ち上げをリードする。2017年より現職primeNumberに入社。自社プロダクト「systemN」におけるSpark/Redshift活用等のデータエンジニアリング業務を行うかたわら、データ統合業務における工数削減が課題だと感じ、データ統合を自動化するサービス「trocco®」を立ち上げる。