2010年代以降、政府主導で地方行政・企業のDX化が進められています。成功した事例を参考に、自社のDX化に取り組んでいる企業も多いのではないでしょうか。

ただし、これまでの紙のやり取りをただパソコンでの業務にシフトさせることは、DXとはいえません。そのシフトはいわゆるデジタル化にすぎず、真のDX化を実現するにはITの技術を活用して社内の文化やビジネスモデルに変革をもたらす必要があります。

DXへ向けた取り組みのなかで、注目されているのがデータの活用です。

販促施策の効果予測・顧客の属性分析など、データの活用は以前から行われていました。

分析手法の進歩やツールの発展により、さらにデータは容易に、かつ効果的に分析できるようになりつつあります。

そのデータ分析を社内へ浸透させ、トップから現場レベルまでデータに基づいた経営判断をしていく組織体制が本記事のテーマ「データドリブン経営」です。

本記事ではデータドリブン経営の概要や重要性、データを活用したDX化成功事例を解説します。

データドリブン経営とは

データドリブン経営とは

データドリブンは「データにドライブされた(駆り立てられた)」と直訳できます。

経営におけるデータドリブンとは、「データに基づく経営」を指します。具体的には、戦略や方針などビジネス上のあらゆる判断がデータに基づいて実施され、社内文化として根付き、データ活用の基盤が整備されていることです。

従来もビジネス判断にデータが活用されるケースはありましたが、

  • 取得できるデータに限りがある
  • データの活用にはデータエンジニアが必須
  • 分析に手間がかかるので先手を取る判断ができない

などのハードルを抱えていました。

技術の発展により、上記の課題は解消されつつあります。その結果、データドリブン経営が実現可能なDXソリューションとして注目されるようになりました。

データドリブン経営の重要性と考え方

従来のKKD(勘、経験、度胸)による判断は、経営上の判断を誤ることで最適な判断ができないだけでなく、企業の存続に関わる致命的なリスクにつながります。

たとえば、すでに市場規模は縮小傾向にあるのに、運良く業績が伸びている企業があるとします。運による要素がなくなると、期待したほど業績が伸びないばかりか、うっかり事業の拡大に踏み切りって大きな損益を出してしまうケースがあります。

上記の例のような根拠に乏しい経営判断によるロスを防ぐには、データを根拠にした経営判断、すなわち「データドリブン経営」が重要です。

データドリブン経営の考え方は下記の2つが軸になります。

  • データに基づく判断が文化として定着すること
  • 社内にデータ分析基盤が整備されていること

この2つを浸透させ、データドリブン経営を実行することでKKDに頼らない正しい意思決定が可能になります。それだけでなく、意思決定の根拠に客観的なデータを使用することで主観的な議論を排したスピーディーな意思決定が可能になり、状況の変化に対して先手が打てるのが魅力です。

次の章では具体的な流れをステップごとに解説します。

データドリブン経営を実現するための5つのステップ

データドリブン経営の実現には5つのステップがあります。

それぞれのステップを順番に実行していくことで、データドリブン経営につなげられます。

データドリブンを実行する目的の明確化と全体像の把握

初めのステップとして、どのようなデータを活用して経営上の判断に役立てていくのか、全体像を把握しましょう。

まずは全社単位ではなく個々の現場レベルでのデータドリブンをイメージし、データを活用してどの意思決定をどう改善したいのかを決め、データドリブンの目的を明確にします。

次は改善したい意思決定に関連するKPIを策定し、分析に必要なデータの要件も検討します。

マーケティング部門の、「ある広告施策を実施するか否か」の意思決定をデータドリブンなものに変えたいケースを想定しましょう。策定すべきKPIは、どの程度のコストでどの程度のCVが得られそうかなどです。

そのKPIを達成できるか判断するのに必要なデータは、過去の広告データや同業他社の類似キャンペーンのデータなどが考えられます。

同様に小さな単位から意思決定を見直していき、末端からデータドリブンを浸透させていくことでそれを活かしてより大きな単位(部署・部門など)の意思決定をデータドリブンなものにできます。

データ収集・蓄積の実行

データをどんな判断に活用したいか、データドリブンのイメージが決まったら必要なデータを収集するためのデータ分析基盤を構築します。

このとき、ただデータを収集するだけでなく、社内のすべてのメンバーがデータを活用できるような基盤を構築することが重要です。

使いやすいETLツールを導入したり、スケールさせやすいDWHサービスを利用したりなど、さまざまな要素を組み合わせて、非エンジニアのニーズにも応えられる分析基盤を構築しましょう。

データの可視化

データを根拠にした判断だとしても、その根拠がわかりやすく人に共有できなければ、いまいち意思決定の判断材料として信頼度に欠けてしまいます。

また収集した煩雑なデータをただ眺めていては、インサイト(気づき)を得るのは難しいです。

そこで収集したデータは視覚的に理解しやすく可視化しましょう。

このステップで有効なのが、BIツールと呼ばれるサービスです。

BIツールは直感的な操作性を特徴としており、非エンジニア人材でも容易にデータの可視化が可能です。

データの収集自体は自動で行えるようにしても、データの整備・可視化がボトルネックにならないよう注意しましょう。誰でもデータを可視化できる仕組みの実装が必要です。

BIツールとは?必要性やメリット、4つの代表的なツールを解説

データ分析・活用

表やグラフなどに可視化したデータを分析し、インサイト(気づき)を得ます。

インサイトと言うと、データを分析するまで誰も思いついていなかったような傾向や特徴と思われがちです。

しかし、データ分析前に持っていた直感・なんとなくの勘をデータによって補完し、自信をもって判断できるようになるだけでも、データから十分なインサイトが得られたといえます。

期待したインサイトが得られなければ、再度必要なデータを検討し直し、異なる視点から分析を試みるなど分析フローを改善します。

経営戦略の策定・実行

データから得られたインサイトをもとに、今後の経営戦略など具体的なアクションプランに落とし込んでいきます。

上述の「広告施策を打つか否か」の例であれば、「そもそも策定したKPIは達成できそうになさそう」、「リマインドのメール広告を打つことでKPIを達成できるかもしれない」などのインサイトが得られることが考えられます。得られたインサイトを踏まえ、広告施策の是非を検討し、施策を打つならインサイトを生かしたアクションプランを立てていきます。

データドリブン経営は一度のデータ活用では終わりません。

社内外の環境の変化に応じて、データに対する活用ニーズは絶えず変化します。

プランを実行した結果や新しく生まれたニーズをふまえて、データドリブンのサイクルを回し続けることが重要です。

データドリブン経営のメリットと見込める効果

データドリブン経営のもっとも重要な点はデータに基づく経営判断です。

そこから以下のようなメリットが得られます。

データに基づく客観的で正確な意思決定を実現できる

データに基づく意思決定は判断ミスによるリスクを下げ、客観的な意思決定を可能にします。それだけではなく、意思決定のスピードも向上します。

データを根拠にした判断はいわば主観を排した客観的な判断であり、意思決定のうえで「その判断が本当に合ってるのか?大丈夫なのか?」という議論を短縮できます。

正確な経営判断を実現するためには、長い時間をかけて議論を重ね、慎重に判断を進める必要があります。とはいえ、ビジネスを大きく成長させるためには、重要な判断ほどスピード感も求められるケースが多いです。

データドリブン経営を実現できれば、データに基づく判断であれば正確さとスピーディーさを両立でき、競合他社・新規参入する企業よりも先手が打てるようになります。

顧客ニーズを分析し、質の高い商品・サービスを提供できる

既存顧客のデータや施策のデータを分析することで顧客にとってプラスに働く要因、あるいはマイナスに働く要因を特定し、サービスの改善につなげられます。

従来も顧客アンケートなどからサービス改善へ向けた分析は行われていました。しかしデータに基づく分析ではなく、それぞれの要因がどの程度顧客の満足度に影響を与えているかを定量的に扱えないなどの課題を抱えています。

近年はデータ分析の手法も進歩し、顧客ニーズを詳細に分析できるようになりました。

その結果、顧客満足度に影響を与える要因に対して優先度を設定し、効果的なサービス改善につなげることができるようになりました。

データドリブンのサイクルをスピーディーに回すことで、顧客のニーズの変化を敏感に捉え、そのニーズに応える手を打つことができます。

売上や収益率などの数値の改善が見込める

事前に可能な限りデータを集め、それに基づく戦略を立てることはビジネスの成功のための大前提の条件です。しかし必ずしも想定した結果が得られるとは限りません。

1回限りのデータ活用であればそれで終わりですが、データドリブン経営のもとでは、得られたフィードバックのデータを元に、売上にネガティブな要素を除く、あるいはポジティブな要素への投資額を増やすなどの改善につなげられます。

このとき従来のPDCAサイクルとデータドリブンの発想を組み合わせることが有効です。

スピーディーなPDCAサイクルと並行してデータ分析も行い、各サイクルで分析結果を見ながら議論することで、判断・意思決定の正確性を損なわずに細かくアクションを改善できます。

データドリブン経営における課題と対策法

データドリブン経営には多くのメリットが期待でき、まさに理想的なDX化の姿といえるかもしれません。しかしデータドリブン経営は全社に渡る取り組みであり、実現へ向けて多くの課題があることも確かです。

データドリブンの実現へ向けては以下の課題を認識し、対策を考えておくことが重要になるでしょう。

データマネジメント

まずはじめの課題はデータマネジメントです。

膨大な量のデータが収集されるなか、データの知見がない社員でもデータを有効活用するにはデータエンジニアチームによるデータマネジメントが欠かせません。

とくにマネジメントが必要になるのがデータのサイロ化です。

経理・マーケティング・セールスなど部署ごとに使用するサービスは細分化しつつあり、それに伴ってデータも各サービスで孤立しがちです。全社的なデータ活用にはそれらサービスのデータを統合し、データのサイロ化を解消するなどのマネジメントが必要になります。

データの活用規模が大きくなるほどデータマネジメントの重要性は高まります。

くわしくは以下の記事でも解説していますが、場合によってはデータ基盤の導入よりその後のマネジメントのほうが大きな負担になることもあります。データマネジメントは直面しやすい課題であるため、あらためて概要や必要性、成功させるための条件を確認しておきましょう。

データマネジメントとは?必要性や成功に欠かせない前提条件、参考事例を解説

専門的な人材の採用・組織体制の構築

データドリブン経営は、データを活用して経営戦略を計画していくため専門的な人材が必要になります。

データ分析ができるデータサイエンティストや、経営戦略、デジタルマーケティングに精通している人材など、専門的な人材はさまざまです。

とはいえ、このようなスキルを持つ人材は不足している傾向にあり、採用活動にコストをかけても、思ったように人が集まらないおそれがあります。また専門的な人材がいないまま見切り発車でデータドリブン経営を実現させようとしても、途中で頓挫してしまい導入を断念せざるを得ない事態も考えられます。

長期的には社内のデータ人材の育成が必要ですが、まずはフリーランスのデータエンジニアなど、外部のデータ人材を活用することも検討に入れておきましょう。

社内理解

データドリブン経営は全社的な取り組みになります。

一度データ基盤を構築しても、データ活用が社内文化として根付かなければ収集したデータも結局活用されず、DX化の実現には至りません。

データ基盤の導入・運用コストも決して安くはないため、まずは経営陣にデータドリブン経営の重要性を理解してもらう必要があります。

データの収集には現場の非エンジニア人材の協力も必要になります。社内外の勉強会(セミナー)などを活用し、データドリブン経営を自社に深く浸透させましょう。

ツールの導入

近年データエンジニアリングの分野ではクラウドサービスで

など、安価に導入可能かつ、扱いやすいサービスが普及しつつあります。

これらのサービスはデータ分析の各工程に対応しており、サービスを組み合わせることで容易にデータ分析基盤の構築が可能です。

一方で各ツールの違いがわからず、ツールを比較して検討する際にどれを導入するか迷ってしまっている方もいるかもしれません。そのような場合、自社のデータ活用のイメージを明確にして、ツールに補って欲しい要件もまとめましょう。ツールを活用するイメージ、また解決したいポイントが明確になっていれば、自社がどのようなツールを選定するのかに役立ちます。

また弊社提供のETLサービスtrocco®のように無料のトライアル・フリープランを提供しているツールもあります。

トライアルを積極的に利用し、イメージと使用感の乖離を確認しておくと納得感をもってツールを導入できます。

データドリブン経営の成功事例

実際にデータドリブン経営を成功させた事例を紹介します。

今回紹介するのは、外部のプロ人材の経験・知見を複数の企業でシェアする「プロシェアリング」事業を運営する株式会社サーキュレーション様のデータドリブン経営の成功事例です。

株式会社サーキュレーション様は事業の拡大とともに、

  • 部門ごとのサイロ化
    • 部門最適への偏りが全体最適の妨げに
  • 事業のスピード感に対するPDCAの基盤の脆弱さ
    • PDCAを支える企画・開発体制が追いついていない
  • データ管理上の課題
    • Salesforce上でのデータ活用に限界を感じている

などの課題を抱えていました。

前述のツールを組み合わせたモダンなデータ分析基盤を導入し、非エンジニアもデータ活用しやすい体制を整備、

  • 財務分析/原価管理/予実管理の領域における工数削減やデータ品質の大幅な向上
  • 主要KPIの変動要因分析が実現
  • 仮説検証と行動後の迅速な検証が可能

などの効果の実現に成功しています。

まとめ

本記事では、「データドリブン経営」の重要性やメリット、導入ステップを解説しました。

データドリブン経営は、次世代のビジネスで重要となるDX化へ向けた取り組みです。

全社的なデータ活用の基盤を構築し、「デジタル化」の次のステップとしてのDX化を成功させたい方は、ぜひデータドリブン経営の実現を検討してはいかがでしょうか。

また弊社はデータ分析基盤構築サービスtrocco®を提供しています。

非エンジニア人材でもデータの収集・統合が容易に行えるほか、国内サービスであるためカスタマーサポートやマニュアルドキュメントも充実しており、データドリブン経営を強力にサポートしています。

trocco®ではクレジットカード不要のフリープランをご案内しています。ご興味がある方はぜひこの機会に一度お試しください。

trocco® ライター

trocco®ブログの記事ライター データマネジメント関連、trocco®の活用記事などを広めていきます!