現代では、顧客アンケートやサービス利用データなどさまざまなデータが企業や消費者を動かすようになりました。その背景により、客観的で精度の高いデータに基づいた経営、いわゆる「データドリブン経営」が重要視されています。
データドリブン経営を実現させるためには、さまざまな種類や形式のデータを収集・蓄積した後、そのデータの信憑性を確保するために、徹底したデータ管理が大切です。
そのうえで、データの価値を最大化し、経営に対して適切に活用するためには、今回のテーマである「データガバナンス」が欠かせません。
そこで本記事では、データガバナンスの概要やメリット、具体的な取り組みを解説します。
データガバナンスとは
データガバナンスとは、組織内のデータを有意義に活用できるように統制する取り組みのことです。
組織内のビックデータを扱っていくうえで、データガバナンスの統制する取り組みは主に以下の3つあると考えます。
- データを管理するうえでの体制やルールを決める
- データを管理する監督をし、その結果に責任を負う
- データ活用でのチェックやその報告を行う
データガバナンスの役割は、「どのような状況で」「誰が」「どのデータに対して」「どのような方法で」「何を実行するのか」を定義します。
決められたルールに沿ったデータ活用の監督責任や、何らかの課題に直面した際の確認業務・説明責任を果たすことも求められます。
データガバナンスを遵守すれば、
- ビジネス上の意思決定のスピードの向上
- 法的リスクの低減
- セキュリティの強化
- データの管理コスト削減
などを実現できるでしょう。
データマネジメントとの違い
データマネジメントは、データガバナンスに包含される概念です。データガバナンスはデータマネジメントより高次な存在として位置付けられています。
データガバナンスとデータマネジメントは、それぞれ以下のような意味があります。
- データガバナンス:データマネジメントを遵守させるための監督
- データマネジメント:データをルールに基づいて活用するための行動
データマネジメントは「データの維持とデータをさらに進化させる組織的な取り組み」を指します。
そして、データの維持などのために必要になるデータ運用のポリシーは、データガバナンスで定められるのです。
一般的に、「データガバナンスはデータマネジメントを統制するもの」といわれます。2つの違いを正しく理解するうえで、包含関係をとらえておくことが大切です。
データスチュワードとの関係性
データスチュワードとは、「データガバナンスのフレームワークを推進する人材」のことを指します。データマネジメントとデータガバナンスとの間に立ち、双方に責任を持って管理運用する存在です。
データマネジメントの知識体系「DMBOK」の第2版によると、データスチュワードの役割を以下の4つに定めています。
- 核となるメタデータの作成と管理
- ルールと標準の文書化
- データ品質の課題管理
- データガバナンス活動の実施
データスチュワードは、あらゆるデータやシステムの専門家の役割を果たします。データの活用方法の指揮をとったり、データガバナンスで発生した課題を解決に導いたりするポジションを担っていると覚えておくとよいでしょう。
データガバナンスはなぜ必要?
データ利活用が増え、経済的価値は確実に高まっています。
企業や個人の活動にとって欠かせないものとして、データは扱われるようになりました。
しかしデータの価値が高まると同時に、情報が漏洩すると大きな損失を招いてしまうなどのリスクも高まります。近年ではデータ漏洩などを防ぐべく、より厳重なデータ管理が求められるようになっています。
実際に、総務省の公式ホームページでも以下のように述べられています。
近年、データの経済的価値が高まっており、データは、「智恵・価値・競争力の源泉であるとともに、課題先進国である日本の社会課題を解決する切り札」とも位置付けられている。一方で、グローバル・プラットフォーマーへの個人の嗜好や行動履歴などを含む利用者のデータの集中やその分析、活用の状況への懸念、第1章第5節みたような事業者によるデータの取扱いへの懸念が世界的に高まっている。(略)
このような状況の下、我が国を含む各国で、データの効果的かつ適正な利活用に向けたデータガバナンスに関する取組が進んでいる。
(引用:総務省|データガバナンスへの対応の現状)
このように、現代では企業はデータを適切に管理する必要があり、そのためにはデータドリブンな経営をすることが鍵となります。
データドリブンな経営をすれば、組織やビジネスの迅速な意思決定が可能です。しかし組織内にデータが分散していると、各所からデータを集め、分析するのに時間がかかってしまいます。ビジネスチャンスを逃がしたりリスクを増やしてしまったりする原因にもなりかねません。
そうならないために、まずはデータを統合して管理し、データドリブン経営ができる状態をつくる必要があります。さらに、データを活用するためには適切なデータマネジメントと、データマネジメントを統制するデータガバナンスも不可欠です。
現代で必要とされるデータドリブン経営の質は、データガバナンスの質に依存します。経営で正しい意思決定を実現し、より効率的にビジネスを成長させるためにも、データガバナンスは欠かせない取り組みになります。
データガバナンスのメリット3選
データガバナンスのメリットには以下の3つが挙げられます。
- データ品質・データマネジメントの向上が期待できる
- 精度の高いデータに基づいてビジネスの戦略を実行できる
- コンプライアンスの遵守を徹底し違反を妨げる
各メリットについて詳細を解説していきます。
データ品質・データマネジメントの向上が期待できる
データガバナンスに基づいてデータを取り扱うことにより、データの正確性・完全性・一貫性を保証できます。信頼できる品質の高いデータを蓄積していくことで精度の高いデータ活用の土台をつくることができます。データ品質を管理することもデータドリブン経営に欠かせない条件の一つなのです。
データ品質についてはこちらの記事で解説しています。併せてご覧ください。
データ品質とは?評価基準や品質を向上させる戦略、管理を怠るリスクを解説
もうひとつのメリットはデータマネジメントの向上につながる点です。
データガバナンスによってデータマネジメントが監視できるため、結果的にデータマネジメントの効率化が期待できます。もちろんそれだけではありません。データの整合性が保たれることもデータマネジメントの向上に貢献します。
社内で扱うデータの数が多くなると、データの種類やデータベースのフォーマット、管理ルールなどが各部門で異なるケースがありませんか。そのままの状態では、横断的な分析がしづらく、データの統合や有用な情報の抽出が困難になります。
しかしデータガバナンスに沿って記録されるデータは、あらかじめ定義されたルールに則って保管されます。整合性が保たれた状態となり、データ活用時にユーザーが望んでいる結果を導きやすくなります。
このようにデータマネジメントの向上に一役買う点も、データガバナンスのメリットです。
データマネジメントについてくわしく知りたい方は下記の記事もご覧ください
データマネジメントとは?必要性や成功に欠かせない前提条件、参考事例を解説
精度の高いデータに基づいてビジネスの戦略を実行できる
データガバナンスの機能によって、GPSのようにデータ一つひとつの場所を認識し、データの背景や複数のデータの関連性を把握することができます。
データや分析結果の意味が明確になることで、出力されたデータが裏付けのある「精度の高い」データとして価値が生まれるのです。
そして、データマッピングによりシステムが持つデータベース間の違いを超えてデータを統合することができ、データが活用されていくことで結果的にビジネスに結びつきます。
たとえば、売れ行きがあまりよくない商品のプロモーションを見直す際に顧客の購買・行動データがあれば、より効果のある販売戦略を再考できるでしょう。精度の高いデータをビジネス戦略に活用できる点は、データガバナンスを実施する大きなメリットとなります。
コンプライアンスの遵守を徹底し違反を防げる
組織のなかでデータを活用していくには、組織内のメンバーがその重要性を理解し、データ活用の目的に沿った行動をとることが求められます。そしてデータ活用のプロセスに関与する個人には、それぞれの役割に応じて行動規範があります。
たとえば、データを集約し、分析する過程ではデータ内に顧客情報や個人情報などが含まれていることがほとんどです。このような情報が万が一漏洩するようなことがあれば、その企業には訴訟や名誉毀損などの大きな危険が及びます。
そこでデータガバナンスを図ることで、データの取り扱いに対する法的なセキュリティポリシーの軸に沿って監視できるようになります。
コンプライアンス違反を防いだり、違反に抵触する自体が起こったときに迅速な対応ができたりするのです。
データガバナンスに取り組む手順
データガバナンスに取り組むための手順を、大きく4つに分けて解説します。
- データガバナンスを実施する目的と目標の明確化
- ガイドラインの策定
- 組織体制の構築とデータの監視
- データガバナンスの適用
データガバナンスを実施する目的と目標の明確化
まずはじめに、以下の2点を明確にする必要があります。
- なぜデータマネジメントを実施するのか
- データマネジメントで何を得たいのか
明確にする理由は、データガバナンスは、データマネジメントを統制するために実施する取り組みだからです。
現状の問題を洗い出した後は、それをデータガバナンスによってどのように解決するのか具体的な目標を設計します。
たとえば個人情報に対する管理が十分にできていないケースの場合、以下のような目標を設計してみると良いでしょう。
「個人情報に対するポリシーを明確化し、組織内でポリシー違反があった場合は厳しく罰する体制を設ける」
またデータの活用方法が曖昧であれば、「データの利用内容を可視化できるものを作成する」などの目標を掲げてみてください。
ガイドラインの策定
データガバナンスの目的と目標が明確になったら、「目的を達成するためにどのように統制していくのか」を決めます。
組織内のデータに対する意識を統一し、定めたルールを遵守してもらうためにデータガバナンスをガイドライン化するのです。
ガイドライン化されていないと、目指すべきデータガバナンスの形がはっきりとしません。行動に移せなかったり、運用が継続されなかったりしてしまいます。個人情報の漏洩や不正利用、法的トラブルなど発生しうる問題を防ぐためにも、日頃からガイドラインで定めたことを実行することが大切です。
ガイドラインを策定する際は、メンバー全員が一貫した行動をとれるよう、各データマネジメント組織側で個別事情を考慮の上、個別ガイドラインとして詳細化するようにしましょう。
組織体制の構築とデータの監視
データガバナンスの推進にあたり、データマネジメントがデータガバナンスを軸として正常に実施されているかを監視する人員が必要です。
コンプライアンスの遵守や、データへのアクセス権限などの監視に人員を割り当てます。そのほかにもアーキテクトやストラテジストを動員し、データガバナンスの組織体制を構築しましょう。
また、規制や法律に違反する行為の検出やセキュリティの向上、問題の早期発見のため、データ監視ツールを導入することも効果的です。
データ監視ツールを活用すれば、通常目には見えない部分まで可視化することができます。
たとえば以下の機能が役に立つでしょう。
- ネット上で不正アクセスが行われていないかを監視する機能
- データの運用が停止していないかを監視する機能
- 性能が落ちていないかを監視する機能
データガバナンスの適用
組織体制の構築が完了したら、実際にデータマネジメントをデータガバナンスによって運用します。まずは、各データマネジメント組織で作成された個別ガイドラインをレビューし、「ガイドラインの内容が盛り込まれているか」を確認するところから始めると良いでしょう。
確認後は、データの蓄積やデータの活用など、データマネジメントに関わるすべてのプロセスにデータガバナンスを適用します。
データガバナンスのもとでデータマネジメントを開始したら、データカタログの利用を推奨します。データカタログでは、分析データがどのデータに接続されているのか、いつ、だれが、どのようなデータを変更したのかなどを確認でき、データの全体像を把握することが可能です。
データガバナンスの事例
データガバナンスのひとつの活用事例として、「属人化の解消」があります。属人化とは、一般に特定の社員が担当している業務の詳細内容や進め方が、当人以外では分からなくなってしまう状態を指します。
ここからは弊社primeNumeberが実施した、株式会社アイスタイル様(以降アイスタイル社と記載)の例をもとに、データガバナンスの事例を解説します。
アイスタイル社では各ワークフロー、データマート、データパイプラインが属人化しており、ガバナンスが利いていない課題が浮き彫りになっていました。
たとえば、データパイプラインの設定者以外もエラーに気づける環境になっておらず、いざデータを活用するという状況になってからエラー対応をするなど、データ利用の現場に負担がかかっている状態でした。
そこで、データ分析基盤総合支援ツールであるtrocco®を導入し、データガバナンスを図りました。
データのアナリストがマートの構築や整備を推進し最終的にデータの分析業務や業務改善につながりました。同時に、マニュアル整備やパイプラインの作成方法の標準化などデータ利用の体制においてもガバナンスの改善に取り組むことができるようになりました。
(参照:共創する@cosmeのデータ基盤 – 更なる品質とガバナンスの高みへ | trocco®(トロッコ))
データガバナンスに取り組みたいと考えたら何から始めるべき?
データガバナンスを実施していくには、「どのデータマネジメントに対してガバナンスを利かせたいのか」を意識する必要があります。
「万事うまくいくように」と漠然とガバナンスを利かせようとしても、各データマネジメントの領域が抱えている個別の課題を見失い、失敗してしまうこともあるからです。
あくまでデータマネジメント上の課題が先にあり、その課題を解消するためにデータベースの管理者としてどのようなガバナンスを行えばいいか、という発想を持つことが重要です。
個別の課題からスモールスタートでデータガバナンスに取り組んでいきましょう。
まとめ
データを適切に活用するために必須となるデータガバナンスの概要やメリット、活用事例などを解説しました。
データドリブン経営が重要視されている今、データの信憑性を確保するためにデータガバナンスが非常に大切になっています。
データマネジメントとデータガバナンスの違いを理解し、自社のデータ分析基盤の運用に生かしてみてはいかがでしょうか。
また本記事の事例で紹介したtrocco®は、データカタログ機能やデータリネージ機能など、データガバナンスに有効な機能を備えています。そのほかにも、ETL機能をはじめとして、データ分析基盤の運用をトータルでサポートする多機能さが特徴のサービスです
データの連携・整備・運用を効率的に進めていきたいとお考えの方や、プロダクトにご興味のある方はぜひ資料をご覧ください。
