事業のグローバル化や多角化が進むにつれて、システムは分散化しデータ活用がより困難なものとなりました。そして単に分散したデータを統合するだけでなく、急激に変化するビジネスのスピードにも後れを取らないようにしたいというニーズが生まれています。
そのような中で注目を集めるようになったのが、「データHUB(ハブ)」です。データHUBは、企業がデータを効率的に収集や管理、分析し、業務効率化やビジネスイノベーションを実現するためのツールです。
本記事では、データHUBとは何か、そのメリットや活用のポイントについて詳しく解説します。
データHUBシステムとは?

データHUBとは、企業や組織に蓄積している、顧客データや従業員データなどのさまざまなデータを一元的に管理するプラットフォームシステムです。
現代では、TwitterやInstagramといった各種SNSや通販サイトなどが普及し、それらの属性的データや購買情報を有効活用したいというニーズが生まれました。データHUBシステムを用いれば、これらのデータを分析におけるデータソースとして扱えるようになり、そこからより包括的なビジネスインサイトを得られるようになります。
従来は各部署ごとにデータが分散しておりデータの管理や分析が煩雑で、効率的な活用が課題となっていました。しかしデータHUBにより、それらの分散したデータを一元管理できるようになったため、分析や活用が容易になったのです。
またデータHUBは、以下のようなデータのライフサイクル全体を支援する機能を提供しています。
- データの収集
- データクレンジング
- ストレージ
- 処理
- 可視化
さらに、マーケティングやカスタマーエクスペリエンス、IoTなどの領域での活用も進んでおり、データHUBの重要性は今後ますます高まっていくでしょう。
データレイクとデータウェアハウスとの違い
データHUBとデータウェアハウス(DWH)は、どちらとも企業や組織のデータ管理に関するプラットフォームやシステムですが、使用目的や扱うデータの構造などいくつか異なる点があります。
データHUB | DWH | |
利用目的 | さまざまなデータソースからのデータを一元管理し、データを統合・活用する | 分析に利用する大量のデータを収集し、統合する |
データの構造 | 非構造化データを含むさまざまな構造のデータ | 構造化データのみ |
データの処理方法 | リアルタイム処理 | バッチ処理 |
ターゲットユーザー | 一般的なビジネスユーザー | 専門のデータ分析者 |
データHUBは、データを一元管理することが本来の目的です。したがって、さまざまな種類のデータソースからデータを集約するのには適していますが、その後のデータ分析や可視化につなげることには向いていません。
一方、構造化データか非構造化データかを問わないため、データの管理に関して柔軟性に長けているのが特徴です。またデータHUBは、リアルタイム処理が可能であるため、顧客データやサービスなどに何か変更があった場合には、即座に更新して対応できます。
それに対してDWHは、大量のデータを収集し、分析・可視化に利用することが目的です。したがって、BIツールと連携することで、データ分析を行った後、その結果の可視化をスムーズに行えます。
しかし、DWHへはデータを構造化して保存するため写真や動画、SNSなどの属性的なデータを扱えない特徴があります。またデータの処理方法としてバッチ処理を利用しているため、リアルタイムでの処理は行えず、更新頻度はデータHUBの方が上です。
そして、専門知識を特に持たない一般的なビジネスユーザーでも扱えるように設計されたデータHUBに対して、DWHは専門のデータ分析者が扱うことが想定されている点も異なります。
データHUBシステムが注目されている背景

データHUBシステムが注目され、普及した主な背景を3つ解説します。
一つ目は、データの多様化です。近年企業が保有するデータは、センサーデータやログデータ、SNSの投稿データなどの非構造化データが増加しています。従来のDWHでは、これらの非構造化データを扱うことが難しいため、データHUBの導入が多くなっています。
2つ目は、データドリブン経営が重視されるようになったことです。DXが普及したため、企業の多くがビジネスの意思決定にデータを活用することを目指しています。そのため、データの収集や管理、分析が重要な課題となっており、データHUBはこのような状況に対応するために注目されているのです。
3つ目は、リアルタイム処理の需要が高まったことです。ビジネス環境が複雑化したため、リアルタイムでのデータ処理、分析が求められています。DWHだけではリアルタイム処理を行うことが難しいため、データHUBが注目されたのです。
データHUBシステムを導入する4つのメリット

データHUBを導入することで、自社のデータ活用においてさまざまな恩恵を受けられます。本章では、データHUBが注目された背景をふまえ、実際に導入するとどのようなメリットがあるのか解説します。
システム間のインターフェースを最適化できる
行き当たりばったりのシステム開発をし続けたことで、システム間インタフェースが非常に複雑になってしまい、管理しきれなくなるケースがあります。
このような状況を放置していると、
- 同じ内容のデータがいくつも重複してシステム間連携されており、データを変換するコストが必要以上にかかる
- システムでのデータに不整合が生じるリスクが高くなる
- システム改修や入れ替えの際の影響範囲がわかりにくい
などの問題が出てきます。
しかしデータHUBの導入により、複数のデータソースを一元管理して無駄なシステム間インタフェースを削減でき、上記のような状況を脱却できるのです。
DX(デジタルトランスフォーメーション)に対応できる
DXに対応する目的で、データHUBを導入するというケースがあります。
ここでのDXとは、「デジタル化によって組織や業務プロセスなどを変革を改新し、ビジネスの質や業績、顧客満足度などを向上させること」を指します。
DXを実現するためには、以下の3つを必要なタイミングで連携できるような仕組みを備えておく必要があります。
- SoR(Systems of Record):記録のためのシステム
- SoE(Systems of Engagement): 顧客とつながるためのシステム
- SoI(Systems of Insight):洞察を得るためのシステム
たとえば、SoRからSoEに対してデータを滞りなく連携することで、カスタマーエクスペリエンスの向上に貢献します。さらには、他社との競争における優位性獲得にも繋がるでしょう。
しかし、SoRはIT部門が保守運用していて、SoEやSoIは事業部門などIT部門以外が主体で導入から構築を行っています。つまり、SoRとSoE、SoIは開発主体が異なっており、開発の段階での連携は困難なのです。
そこで、データHUBを導入すると、これらのシステムが必要なタイミングで連携することを助け、DX実現に大きく貢献できます。
非構造化データと構造化データの統合をしやすい
一般に非構造化データと構造化データを統合するには、構造化データを包括するスキーマを設計し、非構造化データを構造化するためにメタデータを追加する必要があります。
しかしデータHUBを使えば、このような処理の自動化が可能です。たとえば、非構造化データを解析して、自動的にタグ付けや分類を行い、それをスキーマに反映できます。非構造化データの検索やクエリ、分析するための統合インターフェイスの提供まで実現します。
また、従来は企業内部や部門間でデータが孤立していたり、異なる形式や構造で管理されていたりしました。そのため、データのサイロ化が生じ、データの可視性や利用可能性が制限されていたのです。
しかしデータHUBでは、複数のデータソースからのデータを収集し、一元的に管理できるため、データのサイロ化を防げます。また、企業内の異なる部門やシステム間でデータを共有しやすくなり、データの一貫性や品質が向上します。
データHUBを導入することで、データの形式や構造に縛られずに一元的に統合できるため、効果的なデータ分析や意思決定、ビジネスの効率化が可能となるのです。
データ管理にかかる手間やコストを抑えられる
データHUBの利用により、データ運用の多くの部分を自動化できるため、データエラーと人的エラーの削減が可能となります。
たとえば、以下のようなプロセスを自動化することで、人的エラーの削減が可能です。
- データの収集
- データクレンジング
- 変換
またデータ品質ルールを適用し、データの重複などを排除することで、データ品質の監視が可能です。それにより元データのエラーを大幅に削減でき、エラーチェックにかかる労力やコストを軽減できます。
データ品質とは?評価基準や品質を向上させる戦略、管理を怠るリスクを解説 | trocco®(トロッコ)
さらに、データHUBは異なる種類のデータを一元化し標準化できるため、異なるシステムからのデータを容易に統合できます。したがって、複数のデータソースからここにデータを集約するよりも手間を省くことが可能です。
このようにデータHUBは、データ管理プロセスを自動化し、データ品質の向上を促進することによって、データ管理にかかる手間やコストを抑えられます。さらに、データHUBを使用することで、企業はデータの利用可能性を向上させ、ビジネス上の意思決定を促進できます。
データHUBシステムの導入を失敗させないために確認すべき5つのこと

データHUBを適切に使うと、データ活用の効果を最大化させることができます。一方、導入の際に十分な準備ができていないと、データHUBが効果的に使えず失敗に終わってしまう可能性があります。データHUBシステムを導入する際には、以下の項目を事前に確認しておくとよいでしょう。
自社の課題や特性に適しているか
データHUBシステムは、企業内の複数のデータソースからデータを収集し、統合して変換できます。ただし、企業ごとに異なる課題やニーズがあるため、それらに適したシステムであるかどうかを確認することが必要です。
たとえば企業が大量のデータを処理している場合には、データHUBシステムが「スケーラブルであるか」や、「高速で処理が可能であるか」を確認する必要があります。企業が使用しているデータツールやアプリケーションとの統合性があるかどうかも確認する必要があるでしょう。
さらに、データHUBシステムを導入することにより、企業が抱える課題やニーズを解決できるかどうかを確認することも重要です。たとえば企業が分析やレポートの作成に時間を費やしている場合、データHUBシステムを導入することでデータをリアルタイムで分析したり迅速に意思決定ができるようになったりしているかを評価することが大切です。
そのデータHUBシステムが事前に自社の課題や特性に合ったシステムかを確認しておくことで、企業が将来的に発生する可能性がある問題を事前に予測し、最適な解決策を見つけられるのです。
データ管理を容易にできるか
データHUBでは、データの収集や統合、管理、分析などさまざまなデータ管理を行います。そのため、データ管理が容易であることは、データHUBの効果的な活用に直結するのです。
たとえばデータ管理が容易になると、必要なデータを素早く抽出し、変換・分析・可視化できます。これにより、迅速なビジネス上の意思決定や分析が可能になり、データ運用の質の向上に貢献できるでしょう。
またデータHUBは、データの一貫性・正確性・完全性を維持するため、データ品質に関するルールや監視機能を実施します。そのため、データ管理が容易であれば、データ品質に関する問題を早期に発見し、修正できます。
以上のように、データ管理が容易なことで、データ運用においてさまざまな恩恵をもたらします。したがって、データ管理がどれだけ容易に使えるかは、データHUBをいかに有効的に使えるかを左右するのです。
連携したいアプリケーションはあるか
「自社が求めるアプリケーションの連携先があるか」や、「バリエーションはどれほどあるか」を事前に確認しておくことも必要です。
どれだけ高性能なデータHUBでも、自社で使用しているアプリケーションと連携できなければ活用できません。自社で使用しているアプリケーションを事前にリストアップしておき、どのデータHUBであれば連携可能か把握しておきましょう。
現在のデータ分析に課題を感じている方は、アプリケーションの連携先が豊富なデータHUBを選択するとよいでしょう。多くのアプリケーションと連携することで、より多角的な分析が可能になります。
運用方法やデータの活用方法を定められているか
データHUBを導入する際には、あらかじめデータの運用方法や活用方法を定めておくことをおすすめします。
データHUBはデータの収集や更新、保存などのさまざまな業務を行うため、運用方法が明確化されていないとデータ管理を効率的に行えません。
たとえば、
- データ分析の方法
- BIツールでの可視化の方法
- 活用する部門やプロセス
などを明確にしておくことで、データHUBの活用価値を最大化できます。
また、運用方法を明確化することで、たとえば以下のようなことが容易にできるようになるでしょう。
- データの品質
- 一貫性の維持
- データのセキュリティ管理
- データアクセスの制御
データが十分に活用されないまま放置されてしまうのを防ぐために、あらかじめデータの活用方法を定めておくことも大切です。
利用するデータは正しいか
データドリブン経営を実現していくうえで、利用するデータが正しいかをあらかじめ確認しておくことは必須となります。
データHUBではデータの収集や管理、分析などさまざまな業務を行い、ビジネス上の意思決定の材料となるため、正確かつ信頼の高い意思決定を行うためにもデータの正確性は担保されている必要があるのです。
さらに、データHUBで活用されたデータは自社内にとどまらず、顧客やパートナーなど様々な利害関係者に提供されます。そのためデータが正しくない場合、信頼性が損なわれ、利害関係者の満足度が低下する可能性があるのです。
正確なデータを利用することは、正確な意思決定を促すだけでなく、会社の信頼を高めることにもつながります。また効果的な戦略立案にも役立ち、ビジネスの競争力を高めるために不可欠です。
まとめ

本記事では、データHUBを利用するメリットや具体的な活用方法、導入する際に気を付ける点などを解説しました。
データHUBは、企業がデータを効率的に収集や管理、分析し、業務効率化やビジネスイノベーションを実現するためのツールです。効果的に使うことで、システム間のインターフェイスを最適化できたり、DXに対応できたりとさまざまな恩恵を受けられます。
一方、導入の際にいくつかの点を事前に確認しておかないと、データHUBのコストだけがかかってしまい、活用ができていない事態に陥ってしまう恐れがあります。データHUBを活用したいと考えている方は、導入の前にぜひこの記事で紹介したチェック項目を確認するとよいでしょう。
また弊社の提供する、データ分析基盤総合支援サービス「trocco®」はデータのETL機能を中心としたツールです。そのほかにもデータHUBの利用を手助けする、データチェック機能やデータカタログ機能なども搭載しており、データ運用全般を支援することが可能です。
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