データ移行(データマイグレーション)は、組織の成長や技術の進化に伴って避けられないタスクとなっています。しかし、この過程は複雑で、多くのリスクが伴います。この記事では、データマイグレーションの基本的な手順、成功のためのヒント、そして実際の事例を紹介して、その成功への道のりを解説します。
データ移行(データマイグレーション)とは

データ移行(データマイグレーション、Data Migration、以下データマイグレーション)は、異なる装置、ソフトウェア、システム、データ形式などの間でデータを移す重要なプロセスのことです。
このプロセスは、主に2つのシナリオで不可欠となります。1つ目はシステム移行であり、もう1つはデータ活用に関連しています。
システム移行において、データマイグレーションは既存のシステムから新しいシステムへのデータの流れを担当します。これには、メインフレームからオープン環境への移行であるダウンサイジングや自社開発システムからパッケージへの切り替え、オンプレミスからクラウドへの移行であるリプレイスなどが含まれます。
データ活用において、データマイグレーションはデータ分析をサポートするために実施されます。企業はデータからインサイトを得ることを目指し、データを整理し、使いやすいデータリポジトリに配置します。
データマイグレーションの主な目的は以下の2つです。
- システム移行
- データを新しいシステムに移行することで、陳腐な機器やシステムを更新し、最新のテクノロジーを活用します。
- データはシステムの魂であり、新しいシステムはデータを必要とします。そのため、システム移行にはデータマイグレーションが不可欠です。
- データ活用
- データ分析を推進し、企業の収益向上やコスト削減を実現することを目的としています。
- 近年、データドリブンな経営が注目され、データを活用して企業活動を行う動きが活発化しています。そのようなデータ活用のためにはデータマイグレーションが不可欠です。
データマイグレーションは、データの抽出、変換、ロード(ETL:Extract, Transform, Load)などのステップを経て実行されます。異なるソフトウェアやシステム間でのデータ移行には、専用の機材や変換ソフトウェアを使用する場合もあります。今日のデジタルが主流なビジネス環境においてデータは企業にとって貴重な資産であり、その適切な移行と活用は競争力の向上や戦略的な意思決定の鍵となります。そのため、データマイグレーションは、新しいテクノロジーやビジネス戦略を実現するための不可欠なステップと言えるでしょう。
データ移行(データマイグレーション)が重要な理由

データマイグレーションは、正確に実行されなければ、重大な問題を引き起こす可能性があるため、ビジネスにおいて非常に重要な工程となっています。データマイグレーションの重要性を具体的に解説すると、下記5つのポイントが浮かび上がります。
データの正確性
データマイグレーションにおいて、最も基本的な要求としてはデータの正確性が保たれていることが挙げられます。誤ったデータを新しいシステムに移行すると、企業の活動全体に影響を及ぼす可能性があります。このように不正確なデータが移行されると、正しい意思決定ができず、事業のパフォーマンスが低下することが予想されます。
データの分析の信頼性
誤ったデータを使用した分析は、正確な結果を導くことができません。データが正確でない場合、企業は誤った戦略を立てる可能性があり、最悪の場合、経営に大きなインパクトを及ぼすことが考えられます。
データの検証とクレンジング
データマイグレーションの前には、ソースデータを検証する必要があります。不正確なデータや重複したデータを特定し、それらをクレンジングするプロセスが不可欠です。正確なデータの移行は、後続のプロセスを円滑に進めるためにも重要です。
リスク管理
データマイグレーションでは、何か問題が発生した場合に対するリスク管理計画を策定する必要があります。データ移行中にエラーが発生した場合、そのエラーの原因を素早く修正し、計画を遵守するための手順を用意することが肝要です。
結果の検証
データマイグレーションが完了したら、結果を検証することも不可欠となります。具体的には、データの整合性、合計数、金額などを精査し、移行元システムとの比較を行います。差異がある場合、その原因を特定し、修正することが必要です。
上記のように、データマイグレーションは、データの正確性と信頼性を確保し、ビジネスの継続性を保つために欠かせないプロセスです。前述の通り、データマイグレーションに失敗すると、競争力を低下させ、経営に悪影響を及ぼす可能性が高いため、慎重に計画し、実行する必要があります。
データ移行(データマイグレーション)戦略は主に3種類

データマイグレーション戦略は一般的に、下記の3つの主要なデータ移行戦略が利用されています。
ビッグバン移行(一括移行)
ビッグバン移行は、すべてのデータを一度に新しいシステムに移行する戦略です。この戦略のメリットとしては、短期間でデータ移行を完了できることであり、新しいシステムを急速に運用したい場合には有効です。しかし、移行中は移行元システムと移行先システムの両方を一時的に停止する必要があるというデメリットがあり、このデメリットがユーザーに影響を与える可能性があります。それ以外にも、高いマイグレーション負荷とコスト、さらには失敗のリスクが伴います。
トリクルダウン移行(遂次移行)
トリクルダウン移行とは、データ移行プロセスを段階的に進める戦略のことです。具体的には、移行元システムと移行先システムを同時に稼働させ、データを段階的に移行します。この方法のメリットとしては、システム停止を回避できることが挙げられます。しかし、データ移行には時間がかかり、新しいシステムの本格的な利用が遅れる可能性があります。それ以外にも、2つのシステムを一定期間保持する必要があり、それに伴う運用負荷とコストがかかるというデメリットもあります。
ハイブリッド移行
一般的に行われるのはビッグバン移行とトリクルダウン移行ですが、その他にハイブリッド移行という移行方法も存在します。この移行方法は、一括移行と段階的移行の要素を組み合わせた戦略です。たとえば、マスターデータを一括移行し、実績データは段階的に移行するといった方法を取りますが、具体的なアプローチはビジネスの特性やニーズに応じて異なります。この戦略のメリットとしては、一括移行と段階的移行の中間に位置し、比較的早く終了し、システム停止や並行稼働の期間を最小限に抑えられることです。ただし、プランニングとコントロールが必要とされます。
データ移行(データマイグレーション)の基本6ステップ

移行範囲やリスク、リソースを見積もる
最初のステップでは、プロジェクトの成功に欠かせない移行の範囲、リスク、必要なリソースを評価します。具体的には、現在のデータ環境と移行先の技術スタックを詳しく調査し、データの量、種類、品質について深く理解を深めます。それにより、移行に伴うリスク要因を特定し、プロジェクトに必要なリソースを確保します。このステップでは、下記の要因を考慮する必要があります。
ワークロードの種類
考慮すべき要因の中で最初に挙げるべきこととして、ワークロードの種類が考えられます。とくに、仮想マシン、バックアップ、データベースなどの特殊なワークロードの場合、適切なツールを使用してデータを移行できるかが鍵となります。これらのツールを利用できる場合には効率的なデータ移行が可能ですが、ツールが利用できない場合、計画を慎重に立てることが不可欠です。とくに基幹業務のワークロードを移行する場合、段階的なアプローチを採用し、データの転送プロセスを随時テストし、ソースシステムとターゲットシステムを同時に運用することで、ダウンタイムを最小限に抑え、問題を事前に特定できます。また、必要に応じて大規模な移行作業をオフピーク時間に計画することも考慮すべきです。
データ量
データセットが10 TB未満と小規模の場合、データを新しいストレージロケーションに送信するためにクライアント提供のストレージデバイスを使用する方法が、通常、最も簡便で費用対効果の高い方法となります。一方、数ペタバイト(PB)単位の大容量データを移行する場合には、クラウドプロバイダーが提供する専用のデータマイグレーションデバイスが非常に便利です。ただし、データ量が増えるにつれて、オンラインデータマイグレーションの実施に制約が生じることがあります。そのため、データ量に応じて最適なアプローチを選択することが重要です。
完了までの時間
データマイグレーション完了までにかかる時間は、データの量とネットワーク接続の速度に大きく依存します。オンラインデータ転送は速い一方、データ量やネットワーク速度によっては長時間かかることがあります。オフラインデータマイグレーションの場合、データ輸送時間を考慮する必要がありますが、マイグレーションのスピードが最優先事項です。マイグレーションに十分な帯域幅が確保されている場合には、オンラインデータ転送が最適な選択肢です。ただし、帯域幅やネットワークの制約がある場合、オフラインデータマイグレーションを検討することも選択肢に挙げられます。
移行計画を策定する
次に、移行計画を策定します。移行計画は、プロジェクト全体の成功を確保するために不可欠な工程です。具体的には、タスクの優先順位を明確にし、タイムラインを厳密に設計します。担当者と関係者の役割分担を明確にし、プロジェクト全体を組織的に管理します。また、必要なツールや技術の選択も計画の一部として行います。
データクレンジングと前処理を行う
次に実行されるデータのクレンジングと前処理は、データ品質を向上させ、移行プロセスの信頼性を確保するために取り組まれます。具体的な作業として、重複データや欠損データを厳密にチェックし、必要に応じて修正します。このような作業によってデータを正規化し、標準化することで、移行元と移行先のデータ形式の適合性を確認します。
テスト移行を実行する
次に、本番環境への移行前のテスト移行を実施します。これは、一部のデータを使用して、移行プロセスを慎重にテストし、データの完全性とパフォーマンスを確認します。問題が特定された場合、迅速に修正を施すためのフィードバックループが重要となります。
本番移行を実行する
テストが成功したら、本番移行作業を実行します。これは具体的には、実際のデータを新しい環境に移行し、データの検証と完全性チェックを徹底的に行います。ユーザーへのトレーニングやサポートが必要な場合、それらを提供し、スムーズな移行を確保します。
移行後の調整や変更を行う
最後に、移行が完了した後も、システムのパフォーマンスとデータ品質をモニタリングし、必要に応じて調整や変更を施します。これは、ユーザーフィードバックを積極的に収集し、移行後の問題や変更要望に敏速に対応します。
データ移行(データマイグレーション)を成功させるためのポイント

データ移行前にデータをバックアップする
データ移行の前に最も重要なステップは、データのバックアップを行うことです。データ移行プロセス中に何らかの問題が発生した場合にも元のデータを失ってしまうと事業全体に甚大な被害が及びます。そのため、データ移行の前に、確実かつ信頼性のあるデータバックアップを取得し、テスト済みであることを確認しましょう。
テストを入念に行う
データ移行前には、テストを入念に行うことも極めて重要な工程となります。具体的には、下記の4つの作業を行います。
移行対象の洗い出し
まず、移行プロセスで必要なデータオブジェクトを漏れなく洗い出すことが不可欠です。データに漏れがあれば後で手戻りを引き起こし、プロジェクトの遅延を招く可能性があります。初期段階で要件定義を正確に行い、移行対象を正確に特定しましょう。
全てのデータパターンをテスト
次に、本番移行時にエラーを回避するために、すべてのデータパターンでテストを実施しましょう。データのパターンによってシステムの動作が変化することがあるため、異なるシナリオをテストしておくことは重要です。
本番と同じ条件で移行リハーサル
そして、移行リハーサルを可能な限り本番と同じ状況・状態で行いましょう。これは、現行システムとのデータ整合性、移行作業時間の適正な見積もりを確認します。本番移行がスムーズに進行するためには、リハーサルによる検証が欠かせません。
業務調整で移行対象データを最適化
最後に、トランザクションデータをバランスデータに変更できる場合、その施策を検討しましょう。トランザクションデータの最適化により、本番移行時間の削減が可能です。ビジネスサイドと連携し、データ移行の重要性とリスクについて共通理解を確立しましょう。
まとめ

データ移行をエラーなく完了できることは、そのシステムのみならず事業全体にとって非常に重要なことです。データ移行には何種類か手法がありますが、いずれも、テストを入念に行い、データを事前にバックアップしておくことが必須です。
この過程において、データマイグレーションとETLプロセスの適切な理解と活用が重要な役割を果たします。
具体的には、データマイグレーションとETLは、いくつかの面で類似性と相互関連性を持っています。主な点として、データの移動と変換における目的と役割、それにデータフォーマットの変換や統一が挙げられます。また、データマイグレーションプロジェクトではしばしばETLツールが利用され、効率的なデータの抽出、変換、ロードをサポートします。
ETLツールは、データ移行をより効率的かつ確実に行うために、以下のメリットを提供します。
- 効率性
- ETLツールを使用することで、手動のデータ移行やカスタムスクリプトよりも迅速にデータマイグレーションを実行できます。
- 柔軟性
- 多様なデータソースや目的地との連携が可能であり、複雑なデータ変換ロジックを容易に実装できます。
- 品質保証
- データ品質を維持するためのエラーハンドリングやデータ検証機能を提供します。
- 再利用性
- 一度定義したETLプロセスは、同様のマイグレーションやデータ統合プロジェクトで再利用できます。
- 監視とログ
- データマイグレーションの進捗監視やエラーの検出、ログの取得をサポートします。
このようなメリットを踏まえ、ETLツールはデータマイグレーションプロジェクトにおいて価値を提供することができます。
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