行政・民間を問わず、DX化の実現が盛んにもてはやされ、データを活用した新たなビジネスチャンスの創出に期待が集まっています。
データ活用に欠かせないデータ分析では、膨大なデータを分析し、より精度の高い分析結果を得ることが重要とされています。
しかし多くのデータを有する企業ほど企業規模が大きいため、データは社内に散逸し、円滑なデータ分析・活用には程遠いのが現状です。
そこでデータの分析・活用に先立ってデータの統合が必要になります。このデータ統合で活躍するのが、本記事のテーマ「データパイプライン」です。
データ分析業務の6割近い工数がこのデータ統合にかかってしまっており、真に価値のある分析・活用にフォーカスできていないとも言われています。
データパイプラインのメリット、導入方法を学び、自社のデータ活用に活かしていきましょう。
データパイプラインとは

データパイプラインとは、収集されたデータが整備・加工されて分析にかけられるまでのデータの流れです。とくに現在では運用に人の手を要さない「半自動型のデータパイプライン」のことを指します。
以前は各サービスが提供するAPIなどを利用し、ゼロからデータをつないでデータパイプラインを構築していました。
これまではデータの流れの一つひとつをエンジニアが大きな工数をかけて整える必要があり、一度データパイプラインができてもエラー対処など保守運用コストも必要でした。
昨今、画面上の設定のみで基本的なデータの転送(ETL)が可能なETLツールが登場し、データパイプラインの構築は以前と比べ格段に容易になったと言われています。
データパイプラインの必要性

各サービスからcsv形式などでデータをエクスポートし、データベースへインポートすることでもデータの統合は可能です。
しかしユーザーがデータをいつでも分析・活用するには、最新のデータが一元管理されたデータベースが必要です。日々絶えず生成されるデータを滞りなくデータベースへ集約する作業は非常に大変です。人による手動の対応では追いつきません。
そのような課題を解決するために求められているのが、データパイプラインです。データベースを常に最新の状態に保ち、自動でデータを収集し続けてくれます。
常に最新のデータを分析できる体制を整えることで、古いデータに基づく分析よりも正確に分析できます。
データパイプラインの設計に必要な構成要素

データパイプラインの設計に必要なのは、ETL(ツール)、データウェアハウス、BIツールの3つです。この3つの要素は、いずれもデータ分析までの各プロセスに対応しています。
ETL | 散逸するデータを分析用に整えてデータウェアハウスへ格納 |
データウェアハウス | データ基盤の核として、膨大なデータを保管 |
BIツール | データウェアハウスに接続し、データを分析・可視化 |
それぞれの要素を解説します。
ETL
ETLは各サービスとデータウェアハウスをつなぐ役割をもっています。
くわしくは「ETLとは?」の記事でも解説しているので、本章を読んで興味が湧いた方はそちらもご覧ください。
ETLは、Extract(抽出)、Transformation(変換)、Loading(格納)の頭文字に由来しています。各サービスからデータを抜き出し、分析しやすい形式にデータを加工して、データウェアハウスへ格納する役割をもっています。
ETLは各サービスが提供するAPIを活用して、ゼロから実装するのが一般的です。しかしこれには、データエンジニアリングの知識が必要でした。
転送したいデータに応じて毎回ゼロからETLを実装するのは非効率な運用でしたが、近年ETLツールと呼ばれるサービスが普及し、基本的な転送はエンジニアが介在せずとも実装可能になりつつあります。
また、ETLツールは単なるETL機能だけでなく、データETLを定期的に自動実行する機能や、複雑なデータ加工ができる機能まで、1つのサービスに多数の機能が付いていることが多いです。
現在ではETL実装はETLツールの普及が進んでいます。ETLツールについて具体的に知りたい方は、以下の記事で把握しておきましょう。
データウェアハウス
データウェアハウス(DWH)は、各サービスからETLされてきたデータを保管する「中央データベース」の役割を持ちます。保管されたデータは、後述で解説する「BIツール」に接続し、データ分析にかけられる仕組みです。
従来のデータウェアハウスは、物理的なデータベースサーバーを必要としていました。しかしGoogleやMicrosoft、AWSなど大手のITベンダーからクラウドサービスのデータウェアハウスが登場し、現在はクラウド型のデータウェアハウスを利用するのが一般的です。
BIツールの一部は、各サービスのデータに直接接続してデータ分析ができます。しかしデータの読み込みが各サービスの処理能力に依存し、大きなデータは分析処理が重くなってしまいがちです。
その一方でデータウェアハウスはデータの高速処理に特化しており、テラバイトやペタバイト級の膨大なデータも実用的なスピードで処理が可能です。
一度データをデータウェアハウスへETLし、データウェアハウスとBIツールを接続することで、データの分析をスピーディーに処理できます。
データエンジニアリングの手法はまだ発展途上で、データウェアハウスの活用法も日々効果的な運用が模索されています。ETLを行ったデータを直接利用せず、そのデータをデータウェアハウス上で分析用に加工するデータマート作成などがその一例です。
DWH(データウェアハウス)とは?データレイクやデータベースとの違いも解説
BIツール
BIツールは、BI(Business Intelligence)を得ることを目的に、データを分析するためのサービスです。
- データを可視化してデータを理解しやすくする
- データを統計的な手法で分析する
上記の2つを通じてデータの活用を促します。
BIツールの多くは直感的な操作を重視しており、データサイエンスの知識・ノウハウがないビジネスパーソンでもデータ分析ができる仕組みが設けられています。画面上の設定のみでわかりやすい表や、グラフが作成できるのが特徴です。
ExcelやGoogleスプレッドシートなどの表計算ソフトでもデータ分析は可能ですが、データ量が大きくなると処理が止まってしまう弱点がありました。
BIツールであれば、Excelでは処理できない膨大なデータも問題なく処理できます。実用に堪えるスピードで分析するには、データの分析に特化したBIツールの利用が必要不可欠です。
また、BIツールの処理能力を活かすには先述のデータウェアハウスとの連携が重要になります。
BIツールとは?必要性やメリット、4つの代表的なツールを解説
データパイプラインを構築するメリット

データパイプラインを構築することでデータのサイロ化を解消できます。
データのサイロ化とは、データが各部署の扱うサービスに散逸して分散管理されてしまい、部署・部門間でのデータの横の連携ができなくなってしまうことです。データ活用の大きなハードルになります。
データサイロ化を解消するだけなら、定期的にデータを手動で統合するだけでもある程度対処可能です。しかしデータパイプラインを構築することで、主にデータ分析の効率化、脱俗人化やデータ活用の普及を実現することができます。
具体的にどのようなメリットがあるのか説明します。
データ分析による業務の効率化・自動化につながる
ETLの解説で説明したように、データ分析はエンジニアによるデータ統合のプロセスが必要不可欠です。
しかし日々新たなサービスが導入され絶えずデータが生成されるなか、社内のデータベースを最新の状態に保つのはほぼ不可能です。
そのため、異なるサービスのデータもスピーディーに分析基盤へ組み込み、最新のデータベースを自動で維持するには、データパイプラインの構築が必要になるのです。
また、データパイプラインを構築すればエンジニアの工数も削減できます。エンジニアにしかこなせない大規模なデータ分析や、データベース全体のマネジメントなど価値ある業務に専念できるようになる点も、データパイプラインによる業務の効率化・自動化のメリットです。
一度パイプをつなぐことで非エンジニアもデータ分析が可能になる
データパイプラインを構築すると非エンジニアもデータの取り扱いが可能になります。
近年のデータエンジニアリングサービスは非エンジニアにとっての使いやすさを重視したものが増えています。
データパイプラインの各要素に非エンジニアにも扱いやすいサービスを使用することで、エンジニアに依存せずとも基本的なデータ分析ができるようになります。
セールスやマーケティングなど現場の各ユーザーが小さな分析を回せるようになり、社内のデータドリブンな経営判断が促されます。
社内のデータ活用を文化として根付かせるためには、非エンジニアにもデータ活用が容易に行える環境づくりは欠かせません。
データパイプラインの構築で失敗しないためには

データパイプラインは先に紹介した3つの要素を実装することで構築できます。
データ分析の効率化・自動化、非エンジニアのデータ活用のメリットを最大限に活かすには、データパイプラインを構築するうえで気をつけておきたいポイントが2つあります。
- 各工程分断するのではなく細かく連携をとる
- 新しいニーズに対応できる柔軟な環境を整える
これらのポイントを押さえたデータパイプラインを構築すれば、長期的なデータの運用でも負担が大きくならず、スケーラビリティ(拡張性)に優れたデータ活用の基盤を構築できます。
各工程分断するのではなく細かく連携をとる
データパイプラインのデータの流れには以下の4つの工程があります。
- 各サービスからデータを抽出する
- 抽出したデータを分析用に加工する
- データウェアハウスへデータを格納する
- BIツールでデータを分析する
上記のうちどれかひとつでも手動で行う工程が発生すると、データ量が増えた際にその工程がデータ分析のボトルネックとなり、運用上の問題になりがちです。
データパイプラインを構築する際は、極力これらの工程を自動化するように意識しなければいけません。
データパイプラインを外部のサービスの組み合わせで実装する際には、先述のETL、データウェアハウス、BIツールとしてのメインの機能にくわえて、運用の効率化・自動化を意識した機能があるかに注目して選ぶと良いでしょう。
新しいニーズに対応できる柔軟な環境を整える
社内では絶えず新しいデータが生成されます。社外の環境も変化するため、データに対するニーズも流動的に変化します。
変化するニーズに対応できる柔軟なデータパイプラインを構築するには、データパイプラインに高いスケーラビリティをもたせることが重要です。とくにデータのETL、データウェアハウスのスケーラビリティが重要になります。
ETLのスケーラビリティとはETLするサービスが多くなっても対応できる余裕をもつことです。
現在のETLツールは、エンジニアがゼロからETLを実装するよりも安価に転送サービスを増やせるものがあります。ETLを実装する際は、そのようなETLツールを利用するのが有効です。
データウェアハウスは、クラウド型のサービスを利用することでごくわずかなデータからビッグデータ級のデータまで円滑にスケーリングさせられます。
ETL、データウェアハウスのスケーラビリティを高めることで、社内のデータに対するニーズが変化しても無理なく簡単にデータパイプラインを拡張できます。
データ分析を活用していくならクラウドのデータパイプラインがおすすめ

データパイプラインの構築はクラウド型のサービスを利用するのが一般的です。
物理的なサーバーを利用するオンプレミスでの構築は導入コストが大きく、一度実装しても継続的に保守運用コストが発生してしまいます。クラウド型のサービスを利用すればこれらの課題を解決できます。
また海外では、「モダンデータスタック」と呼ばれるクラウドサービスのカテゴリーが普及しています。日本に先んじてデータ基盤のクラウド化が進展しており、うまくビジネスにデータ活用をしていくなら日本の企業も海外と同じように対応していくべきでしょう。
下記の記事にてくわしく解説しています。少しでもご興味をおもちの方はぜひご覧ください。
まとめ
本記事では、データの分析・活用に欠かせないデータパイプラインの構成要素、メリットを解説しました。
DX化の実現に欠かせないデータの活用を円滑にすすめるにはデータパイプラインの構築が重要です。またデータを活用したDX化へ向けた取り組みのひとつ、「データドリブン経営」については以下の記事でも解説しています。
データ活用のメリットをさらに深堀りしたい方はぜひこちらもご覧ください。
データドリブン経営とは?重要性や考え方、成功事例をわかりやすく解説
データエンジニアの少ない中小企業であっても、クラウド型のサービスを利用することで、データ活用の基盤を整えることが可能です。データの活用に興味がある方はデータパイプラインを導入してみてはいかがでしょうか。
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trocco®の位置付けはデータパイプラインにおけるETLを担うETLツールです。しかしETL機能だけではなく、発展的な手法であるELTやリバースETLなど、モダンなデータエンジニアリングの手法も提供している多機能なサービスです。
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