データエンジニアリングをしている方は、一度は「セルフサービスBI」の名前を聞いたことがある人もいるのではないでしょうか。セルフサービスBIとは、ビジネスユーザーがIT部門に依存せず独自にデータ分析やレポート作成を行えるツールのことです。データの利活用をより手軽で効果的に行えるツールとして注目されています。
しかし、セルフサービスBIでは何ができるのか、どのようなメリットがあるのかを詳しく知らない人も少なくないでしょう。この記事では、セルフサービスBIの概要から、従来型のBIとの違い、利用するメリットや活用方法をご紹介します。セルフサービスBIの活用に興味をお持ちの方はぜひお読みください。
セルフサービスBIとは

セルフサービスBI(Self-Service Business Intelligence)は、エンドユーザーが自分で分析やレポートの作成を行えるBIツールのことを指します。従来のBIツールでは操作が複雑で専門的な知識を必要としていたため、一部の高度な知識を有するユーザーしか使えませんでした。しかし、セルフサービスBIは特別なITリテラシーを持っていないエンドユーザーでも簡単に利用できるように設計されているため、幅広いユーザーがデータに基づく根拠ある意思決定を迅速かつ効率的に行えるようになっています。
セルフサービスBIの特徴
セルフサービスBIには下記の特徴があります。
専門知識が不要で直感的に操作できる
セルフサービスBIは専門的なスキルやプログラミングの知識を持たないビジネスサイドのユーザーでも利用しやすいように、使いやすさに重点を置いた設計がされています。ドラッグ&ドロップなどの直感的な操作ができ、視覚的に理解しやすいインターフェースであるため複雑なデータでも集計・分析・視覚化が可能となり、迅速な意思決定が実現できます。
多様なデータを柔軟に分析できる
多様なソースからデータを収集し、統合的な分析を行えます。従来のBIツールではデータの種類や容量に制約がありましたが、セルフサービスBIはこれらの制約を受けず、自在な分析が可能です。
代表的な機能
セルフサービスBIには下記の3つの代表的な機能があります。
ダッシュボード
可視化されたデータやグラフを一つの画面に集約し、リアルタイムなビジネスインサイトを提供するダッシュボードが特筆すべき機能の一つです。直感的な操作で必要な情報にアクセスできるため、重要な指標やトレンドを迅速に把握できます。
レポーティング
高度なレポーティングも代表的な機能の一つです。このレポーティング機能により、担当する事業のビジネスニーズに合わせてレポートをカスタマイズし、見やすい形式で情報共有が可能となります。それ以外にも、スケジュール設定や自動配信機能により、定期的なレポートの作成や共有を効率化できます。
分析
セルフサービスBIなら、ユーザーは高度な分析手法や予測モデルを利用することなく、直感的な操作でデータを探索し、傾向やパターンを発見できます。また、AI技術を活用した自動分析機能により、事業が抱える課題を迅速に特定できるため、素早い対策の策定が可能となります。
従来型BIとセルフサービスBIの違い

ここでは、従来型BIとセルフサービスBIの違いについて、それぞれの特性を踏まえて解説します。
従来型BIの特性と課題
従来のBIツールでは、専門知識を持った情報システム部門の担当者が主導して定期的なレポーティングやダッシュボードの提供などを行い、結果を他の部門に提供する業務形態が一般的でした。そのため、現場のユーザーは直接的な分析を行う機会に恵まれませんでした。
従来型BIの課題は、事前に使用するデータが固定されており、現場で必要なデータが含まれていない場合があることでした。
そのため、
- データの正確性を重視すると意思決定が遅れる
- スピードを重視すると不完全なデータで意思決定を行わなければならない
といった相反するケースが生じて板挟みになることも多々ありました。しかし、セルフサービスBIの登場により上記のような課題は大きく改善されることになります。
セルフサービスBIの特性と利点
セルフサービスBIは、前述した通り、従来型BIツールの課題を解決するため登場したツールです。セルフサービスBIはユーザーが用いる通常のパソコンにインストールして利用できるツールであり、直感的なGUI(グラフィカルユーザインターフェース)を採用しており直感的に操作が理解しやすいため、専門知識を持たないビジネスパーソンでもすぐに利用できます。
また、従来型BIツールでは特定のフォーマットにしか対応できず、フォーマットに合わないデータの取り扱いに手間がかかりました。しかしセルフサービスBIなら、データのフォーマットをカスタマイズできるため、手間をかけずにさまざまなデータを分析できます。
セルフサービスBIを利用する4つのメリット

セルフサービスBIを利用することには、大別して4つメリットがあります。
- 迅速に意思決定ができる
- リアルタイムでデータ分析ができる
- ビジネスサイドでも使いやすい
- コスト削減ができる
それぞれについて説明します。
迅速に意思決定ができる
セルフサービスBIでは、ユーザーが自分でデータの分析やレポーティングを行えるため、情報システム部門の担当者の助けを必要としません。リアルタイムなデータにアクセスし、重要なインサイトやトレンドを即座に把握できるため、結果として意思決定のスピードが向上します。
リアルタイムでデータ分析ができる
従来のBIツールでは、データの集計や分析に時間がかかることも少なくありませんでした。しかし、セルフサービスBIでは、リアルタイムで最新のデータを自由に組み合わせて分析でき、自分で簡単にデータのグラフ化・表化が行えます。そのため、スピーディな戦略立案や改善提案ができます。
ビジネスサイドでも使いやすい
従来のBIツールは、高度な専門知識を有した情報システム部門の担当者を中心とする運用であり、ビジネスサイドのユーザーにはハードルが高いものとなっていました。しかし、セルフサービスBIでは直感的なUI(ユーザーインターフェース)を提供しているため、ビジネスサイドのユーザーでもデータ分析やレポーティングが可能となっています。これにより、エンジニアサイドの管理コスト削減も実現できます。
コスト削減ができる
従来のBIツールでは、データ分析やレポーティングなどの作業は情報システム部門の担当者に依存していましたが、セルフサービスBIでは専門知識のないメンバーでも操作ができるため、結果として情報システム部門のメンバーの負担が軽減できます。また、専門知識を持つ情報システム部門の人員を採用する手間を省くことができるため、人件費削減にもつながります。
セルフサービスBIの活用事例

営業分析と売上予測
セルフサービスBIを活用した営業分析と売上予測は、営業チーム全体に大きな価値をもたらします。従来のBIツールでは、データの準備や分析にエンジニアが工数を割くことが必須であり、営業チームが必要なデータにアクセスするまでに時間がかかりました。
しかし、セルフサービスBIを導入すれば専門知識を持たない営業メンバーがリアルタイムで売上データを追跡し、顧客動向を分析できるため、精度の高い売上予測が行えます。そのため、営業チームがデータに基づく、競合と一線を画す画期的な戦略提案を行うことができます。
マーケティングの効果分析
従来のBIツールではデータの集計・分析に時間がかかり、最新の情報に基づいた戦略立案が難しい場合も多々ありました。しかし、セルフサービスBIを採用すればマーケティング部門の担当者が直接データを分析し、広告のクリック数、コンバージョン率、ROIなどの今後の方針策定に重要な指標をリアルタイムで確認できます。
その結果、マーケティングチームは常に最適化された、効果的なキャンペーンを展開することが可能です。
在庫管理と供給連鎖の最適化
従来のBIツールではデータの分析にエンジニアの協力が必要であり、分析結果の取得に時間がかかることがありました。しかし、セルフサービスBIでは自社の在庫データと供給連鎖の情報を即座に分析できるため、在庫レベルの最適化が可能となります。
これにより、企業は適切な在庫管理が実現でき、サプライチェーンの効率化が図れます。
セルフサービスBIを利用する際に注意すべき5つのこと

セルフサービスBI利用の際には大きく分けて5つの点に注意する必要があります。
それぞれについて見ていきましょう。
データ品質とデータの整合性の担保
セルフサービスBI利用の際には、一貫性あるデータを確保するためにデータ品質とデータの整合性の担保を試みましょう。セルフサービスBIは自由なデータ操作ができることがメリットですが、その自由な操作により異なるソースから取得したデータが混在してしまう可能性があります。組織全体で共通の基準やルールを策定することによって、データの正確性と信頼性を確保しましょう。
データの漏洩や不適切な使用
セルフサービスBIの導入により、部門を問わず多くのユーザーがデータにアクセスできるようになりますが、それに伴いデータの漏洩や不適切な使用のリスクも高まります。そのため、セキュリティ対策を厳格に実施し、アクセス権限やデータの利用制限を適切に管理することが重要となります。また、メンバーにはコンプライアンスについての適切な教育を実施し、データの機密性を確保しましょう。
ツールのパフォーマンス低下のリスク
あまりに膨大なデータを扱う場合、セルフサービスBIツールのパフォーマンスが低下する可能性があります。特にクラウドベースのツールでは、データの処理や応答時間が遅くなることが想定されます。事前にシステムのスケーラビリティとパフォーマンスに関する評価を行い、必要な場合は適切なインフラストラクチャやリソースの整備を行いましょう。
データ分析の知識の不足
セルフサービスBIは高度な知識を持つエンジニアでなくても利用が可能ですが、適切なデータの解釈と意思決定を行うためには、データ分析における基礎知識は最低限のリテラシーとして必要となります。そのため社内で教育プログラムを実施することで、データの有効活用と正確な結果の得られる分析が可能となります。
分析ユーザー増加に伴うコストの増加
セルフサービスBIを利用するメンバーが増えるに従い、月にかかるコストが増加することがあります。クラウドベースのBIツールでは、利用ユーザー数に応じた料金体系(従量課金)が適用される場合があります。事前にコスト見積もりを行い、将来に渡る予算や運用コストを考慮しましょう。また、ユーザー数の管理やライセンス管理を行うことにより、コストの適正化とリソースの最適活用が可能となります。
セルフサービスBIを導入する際に確認すべき5つのポイント

セルフサービスBIを導入する際には、以下の5つを確認することが重要です。
- 使いたい機能の確認
- データガバナンスとセキュリティの確保
- 操作性と使い勝手の評価
- スケーラビリティとパフォーマンスの検証
- 導入・運用コストの確認
それぞれについて詳しく説明します。
使いたい機能を備えているか
まず第一に、自社が求める機能や特徴が含まれているか確認することが重要です。現在、多様なセルフサービスBIツールが提供されていますが、それぞれは異なる機能を備えています。たとえば、データの可視化や高度な分析機能を重視するツールもあれば、操作性を重視したツールもあります。自社のニーズに合致し、必要な機能を備えたツールを選択することで、業務の効率化が図れます。
データガバナンスとセキュリティ
第二に、データの品質と整合性を確保することが重要となるため、明確なデータガバナンスのポリシーと手順を確立しましょう。これには、たとえば、データの標準化、データクレンジング、アクセス制御、セキュリティプロトコル(暗号化や監査トレイルなど)などの設定が含まれます。データの保護およびプライバシーの確保を考慮して、セキュリティ要件を満たすツールを選定しましょう。
操作性や使い勝手
第三のチェックポイントは、操作性や使い勝手です。専門的な知識を持たないユーザーでも簡単に操作できる直感的なインターフェースを備えたセルフサービスBIツールを導入することで多くのメンバーがデータにアクセスできるようになります。ツールの使いやすさや操作方法を評価する際には、メンバーに実際にデモサイトを操作してもらい正直な意見を共有してもらうことでより現場向きのツールが選定できます。
スケーラビリティとパフォーマンス
第四のチェックポイントは、事業の成長やデータ量の増加に対応できるスケーラビリティを持つかということです。それ以外にも、膨大なデータを処理する際に高いパフォーマンスを維持できるかチェックすることも重要です。そのため、ツールの技術仕様やインフラストラクチャの要件、将来的な拡張性を検討し、スケーラビリティとパフォーマンスが要件を満たしているか確認しましょう。
導入・運用コスト
最後に、セルフサービスBIツールの導入や運用にかかるコストの検証をしましょう。ライセンス費用、トレーニングコスト、メンテナンス費用などを考慮し、予算内で導入できるかどうかを確認することが必要となります。また、将来的な拡張やアップグレードに伴うコストも見越して検討することが重要です。全体的な費用対効果を考慮した上で、適切なツールを選定しましょう。
まとめ

今回は、セルフサービスBIの概要や従来のBIツールとの差異、メリットや注意点について解説しました。前述したように、セルフサービスBIの出現によってエンジニアでなくとも直感的にデータ分析ができるようになりました。しかし、データ分析の専門家でないメンバーがツールを効果的に使用するには、適切なトレーニングを受け最低限のリテラシーを身につける必要があり、場合によっては適宜エンジニアのサポートを要することもあります。
また、データを用いてレポーティングや図の作成を行うにはデータ分析以外にも、前段階としてデータ統合という工程が必要になります。このデータ統合には通常、データサイエンスについて学んだエンジニアの力が必要となりますが、trocco®ならデータ統合に必須のETL(Extract,Transform,Load)という作業が事前知識なく簡単にGUIで処理することが可能です。
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