現代のデータドリブンなビジネスシーンでは、このストリーミングデータが大きな役割を果たしています。その背後には、業務プロセスや意思決定の高速化、そしてデータのリアルタイム処理の重要性が高まっている現代ビジネスの動向があります。
本記事では、このストリーミングデータの基本概念やその特性、そしてその処理方法や利用シーンについて解説します。
ストリーミングデータとは

はじめにストリーミングデータの概要と特徴について説明します。
ストリーミングデータは、数千ものデータソースによって持続的に生成される貴重な情報の流れです。
通常、キロバイト単位の小さなデータレコードが同時に送信され、その瞬間に膨大なデータが形成されます。
このデータ形式は、モバイルアプリやウェブアプリで生成される顧客ログ、電子商取引の購買記録、ゲーム内でのプレイヤーアクティビティなど、多岐にわたるデータから成り立っています。また、ソーシャルネットワークや証券取引所、地理情報サービスからの情報、データセンター内のデバイスや計器からのテレメトリなど、広範な分野からの情報が含まれます。
これらのデータは、継続的かつ増分的な方法で処理され、相関分析や集計、フィルタリング、サンプリングなどの幅広い分析に用いられます。この洞察を通じて、企業は顧客のサービス利用状況、サーバーアクティビティ、ウェブサイト上のクリック数、デバイスやユーザーの地理的位置など、多様な情報を瞬時に可視化することが可能です。
その結果、企業は自社のビジネスや顧客の活動に対する洞察を深め、迅速な対応を実現できます。
たとえば、ソーシャルメディアのストリームを逐次分析することで、ブランドの評判変化を追跡し、適切なタイミングで対応策を講じることが可能となります。
ストリーミングデータには、下記の5つの特徴があります。
時系列的な意義
データストリーム内の各要素には、タイムスタンプが付与されます。
これにより、データの変化が時間的に追跡できます。
たとえば、ユーザーの位置情報を活用してリアルタイムでレストランの推薦を行う場合、データの意味や価値は、時間とともに変化する可能性があため、適切なタイミングでの処理が必要です。
絶え間ないフロー
データストリームは、明確な開始や終了を持ちません。必要な限り、データは絶え間なく生成・収集され続けます。
たとえば、サーバーのアクティビティログは、サーバーが稼働している限り、連続して記録されます。この永続的なフローに対して、リアルタイムな処理が行われます。
一意性
データストリームは、一度だけ通過することが多いため、データの一意性が重要です。再送信や重複は許容されず、データは正確に1回だけ処理される必要があります。
多くのストリーミングデータソースでは、再送信の手段が制限されているため、データの正確な処理が要求されます。
非同種性
ストリーミングデータは、さまざまな形式やデータ型で提供されることがあります。
具体的には、文字列や数字だけでなく、JSON、Avro、CSVなどの構造化データ形式でストリームが生成される場合もあります。
これにより、データ処理システムは多様な形式に適応し、柔軟性を持つ必要があります。
不完全性
連続的に発生するデータストリームは、一時的なエラーや欠落によって中断されることがあります。そのため、データの完全性を保証することは難しい場合があります。
しかし、ストリーム処理システムと分析システムには、データ検証ロジックが組み込まれており、エラーを最小限に抑えて信頼性を高める取り組みが行われています。
ストリーム処理とバッチ処理の違い

ストリーム処理と頻繁に比較される処理としてはバッチ処理が挙げられますが、それぞれの違いとしては、下記事項があります。
バッチ処理は、データを一定のまとまりごとにまとめて処理する方法です。ある時間間隔ごとに過去のデータを取得し、それを基に分析結果を生成します。バッチ処理は、大量のデータを用いた集約的な分析や複雑な計算に向いています。
典型的なバッチ処理の例としては、Amazon EMRなどのMapReduceベースのシステムが挙げられます。
ただし、バッチ処理はリアルタイムの情報に対する即時性を持たないため、迅速な対応が必要な状況には向いていないことがあります。
一方、ストリーム処理はデータの生成と同時にリアルタイムでデータを処理するアプローチです。データの流れに追従しながら、即座に分析を行い、必要なメトリクスや情報を更新します。ストリーム処理は、工場のセンサーデータやモバイルアプリのユーザーアクティビティなど、瞬時の監視と対応が求められる状況に適しています。
項目 | バッチ処理 | ストリーム処理 |
定義 | データを一定のまとまりごとにまとめて処理する | データの生成と同時にリアルタイムで処理する |
速度・タイミング | ある時間間隔ごとに処理、即時性が低い | リアルタイムでの高速処理 |
メリット | 大量のデータ分析、リソースの効率的活用 | 瞬時の監視と対応、リアルタイムの情報処理 |
デメリット | リアルタイムの情報の即時性を持たない | 長期的な傾向の分析には不向きな場合も |
使用例 | 大量のデータを用いた集約的な分析や複雑な計算 | 工場のセンサーデータやモバイルアプリのユーザーアクティビティなどのリアルタイムの情報 |
どちらの手法を選択するかは、データ処理の目的に合わせて判断する必要があります。
バッチ処理は過去のデータを用いた長期的な分析や傾向の洞察に適しており、リソースの効率的な活用を可能にします。ストリーム処理はリアルタイムの情報を素早く処理し、アクションを起こす必要がある場面に適しています。
さらに、バッチ処理とストリーム処理の組み合わせによって、データの有効活用が可能です。例えば、ストリームデータをリアルタイムで分析して得られた情報を、バッチ処理を通じて長期的な傾向として把握できます。多くの組織ではこのような処理方法の組み合わせによって柔軟性の高いデータ処理を行っています。
ストリーミングデータのメリット

ストリーミングデータのメリットとしては大別して以下の3つが挙げられます。
リアルタイム性がある
事業を成功させるためには、顧客満足度と競争力の向上が不可欠です。
アプリケーション(アプリ)を利用するユーザーは往々にして、現実世界と同様のリアルタイムなエクスペリエンスを求めがちです。
従来のアプローチでは、リアルタイムなデータ応答を実現するためにデータベースとメッセージ処理システムが使用されてきましたが、これらは急速なデータ流の処理には限界がありました。
しかし、ストリーミングデータ処理の登場により、データはデータベースに保存されるのではなく、ログに記録されます。その結果、イベントコンシューマーはストリーム内の任意の位置からデータを読み取り、いつでもストリームにアクセスできるようになりました。
このような仕組みによって、アプリはリアルタイムで最新の情報を提供し、ユーザーの期待に応えることが可能となりました。
迅速に問題を検出できる
上記のリアルタイム性以外にも、ストリーミングデータ処理の強みとしては、問題の迅速な検出ができることが挙げられます。
データの価値は、鮮度に比例すると言っても過言ではありません。競争が激化する現代のビジネス環境では、データからの洞察を迅速に得ることが成功の鍵となっています。
ストリーミングデータ処理により、データはリアルタイムで分析され、異常なパターンや変化が即座に検出されます。その結果、問題が拡大する前に対応策を講じることが可能となり、組織のリアクティブな姿勢からプロアクティブなアプローチへの転換が実現できます。
大量のデータを効率的に扱える
昨今のビッグデータ時代において、膨大なデータを効率的に処理する能力は競争優位性を保つための鍵といっても過言ではありません。
膨大なデータを効率的に処理することにおいて、ストリーミングデータ処理は、リアルタイムで大量のデータを処理し、必要な情報を抽出できるハイパワーなツールとして存在感を示しています。
従来のバッチ処理に比べて、ストリームデータ処理はデータの遅延を最小限に抑え、リソースの効率的な活用を可能にします。その結果、ビジネスの意思決定がリアルタイムで行えるようになり、競争の激しい市場で一歩リードすることができます。
ストリーミングデータのデメリット

上記のように非常に魅力的なメリットを持つストリーミングデータですが、次のような3つのデメリットもあるため注意が必要です。
一貫性・可用性の高いストリームが必要になる
ストリーミングデータを用いたアプリケーションは、データの流れが連続しているため、一貫性と可用性の保持が非常に重要です。
コンシューマーはリアルタイムでデータを取得し処理するため、プロデューサーからの遅延や欠損がシステム全体の信頼性に影響を及ぼす可能性があります。シームレスなデータの一貫性と高い可用性を確保するためには、データのシーケンシングや冗長性の確保が必要となります。
スケーラビリティが高い必要がある
ストリームデータの特性上、データ量の急激な変動が起こる場合が考えられます。
急なデータ増加が発生する要因としては、大規模なイベント中のソーシャルメディア投稿や突発的なデータの発生が挙げられます。
そのため、ストリーミングデータを用いるシステムには適切なスケーラビリティを備え、ピーク時でもデータの整合性と可用性を確保できる柔軟性が求められます。また、分散環境でのスケーリングやデータ処理においても、適切なオーケストレーション(システムやサーバーなどの構築・運用の自動化)が必要です。
耐久性を考慮する必要がある
上の2つ以外にも、ストリーミングデータは、一度流れてしまえば鮮度が落ちるため、耐久性が求められるという課題があります。
データが、障害や停電などの災害によって失われると、重要な情報が欠落してしまう可能性があります。そのため、耐障害性を持つデザインや冗長なストレージの確保が必要です。
データの保持と復元が円滑に行える仕組みを構築することによって、耐久性の確保が可能となります。
ストリーミングデータの処理方法

ストリーミングデータは通常、下記の6ステップを踏んで処理をされます。
1.データインジェスチョン
最初に、データソースからストリーミングデータを収集し、ストリーミングプラットフォームやデータストアに送るプロセスが行われます。
2.リアルタイム分析
第二に、データが到着するとすぐに分析を行い、リアルタイムの洞察や警告を提供する工程が行われます。
3.データ変換・エンリッチメント
第三に、取得したデータを必要に応じて変換し、他のデータソースから情報を追加して情報を充実させる工程があります。
4.データストレージ
第四に、処理されたデータが、将来の分析や再利用のためにデータベースやデータレイクなどのストレージに保存されます。
5.アラート&アクション
第五に、設定された条件に基づいて、異常や重要なイベントが検出された際にアラートを発生させ、特定のアクションをトリガーすることのできるプロセスが行われます。
6.ウィンドウ処理
最後に、データを一定の時間の窓やサイズに分割し、その範囲内でデータ処理や集約を行うプロセスがあります。
ストリーム処理のためのツール

ストリーム処理を行うツールとして代表的な4つのツールを紹介します。
Apache Kafka
分散ストリーミングプラットフォームとして利用され、メッセージの送受信や保存、高いスループットなどの機能を提供します。
膨大なデータをリアルタイムに処理し、耐障害性やスケーラビリティにも優れています。
Apache Flink
高い処理スループットと低いレイテンシを持つストリーム処理フレームワークです。
ベント駆動型の処理や順序管理、ステートフル処理などをサポートしています。
Amazon Kinesis
AWSが提供するストリーミングデータ処理サービスです。
大量のデータをリアルタイムに収集、分析、処理でき、AWS上での統合性やスケーリング、複数のデータ消費者のサポートが特徴です。
Apache Storm
リアルタイムな分散リアルタイム計算システムで、高い信頼性やスケーラビリティを持ち、継続的なデータ処理が可能なツールです。
ストリーミングデータの活用例

日常のさまざまなシーンで利用されるストリーミングデータは具体的にどのように活用されているのか、4つの例を紹介します。
金融市場の監視
ストリーム処理システムは、新規の動的なデータが継続的に生成されるシステムに大きなメリットをもたらします。とくに、金融市場の監視では、株式市場のリアルタイムの変動を追跡し、Value at Risk(VaR)などのリスク評価を行っています。
具体的には、トレーディングアルゴリズムを実行して自動的に売買を行うなど、高速な意思決定が求められる環境でストリームデータが重要な役割を果たします。
SNSやニュースフィードの更新
SNSやニュースフィードの更新においては、リアルタイムのクリックストリーム解析を通じて、ユーザーの興味や嗜好を把握し、個別のコンテンツをカスタマイズすることが可能です。その結果、ユーザーエンゲージメントの向上とコンテンツの効果的な配信が実現できるようになります。
在庫・価格情報の更新
ECサイトでは、ユーザーの行動データをストリームデータ処理でリアルタイムに解析し、在庫の動向や価格変動を把握します。この作業によって、需要予測や在庫最適化が向上し、顧客に正確な情報を提供する一方で、リアルタイムな価格変動に柔軟に対応することが可能となります。
サーバーやシステムのログ情報の分析
ストリームデータ処理は、サーバーやシステムのログ情報をリアルタイムで分析する際に重要な手段です。異常な動作やエラーの早期検出、リソースの監視、セキュリティインシデントの識別などでは、高速なデータ処理を通じてインフラストラクチャの安定性と可用性を確保します。
とくに、公共事業分野では、送電網やインフラの運用監視においてストリームデータが不可欠な存在となっています。
まとめ

今回は、ストリーミングデータ・ストリーム処理の概要やメリットデメリット、代表的なツールや活用事例について解説しました。
ストリーム処理は今や現代のビジネス環境において必要不可欠な技術です。扱う際には注意が必要ですが、適切に利用できればシステムのパフォーマンスを大きく向上させる手段となるでしょう。
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