製造業、工事業などの現場で必要な工具や部品、消耗品、事務用品など2000万点以上の商材を扱う現場を支えるネットストア「モノタロウ」を運営する株式会社MonotaRO。
「資材調達ネットワークを変革する」を企業理念に掲げる同社では、新規顧客獲得としてWebマーケティングに力を入れており、インハウスでリスティング広告やディスプレイ広告を運用することで広告効果の迅速な改善やスピーディな施策を実現していた。運用効果を検証するためのデータ活用も内製化していたものの、広告媒体からデータを収集、分析するためのパイプライン構築、維持にデータエンジニアのリソースが必要だったという。
そこで非エンジニアのマーケターでもデータ収集、移行ができる環境を目指して「trocco®」の導入を決定した。取り組みの背景にあった課題や効果、データ活用における今後の展望について、ご担当者様にお話を伺った。

課題・問題

インハウスでWeb広告を運用。データ分析も内製化したため、エンジニアのリソース不足が課題に

貴社のマーケティング部門では、どのように広告運用をされているのでしょうか。

小林 史明様(以下、敬称略):以前は広告代理店に運用代行手数料をお支払し、リスティング広告やディスプレイ広告の運用をお任せしていました。しかし、Web広告の予算全体は年間で数十億円もの規模になるため、運用代行手数料がたとえ広告費の数%であっても、無視できない大きな金額になります。

そのため、広告運用を内製化する方が、コスト面での効率化はもちろんのこと、我々が保有する社内のデータと広告データを組み合わせて分析するチームが組織できれば、広告運用や意思決定をより素早く行えるのではないかと考えました。

また、弊社のECサイト「モノタロウ」では多種多様な商材を扱っており、非常に多くのキーワードや商品に対して入札を行っています。その分、分析対象となるデータがExcelで処理できない規模になるため、弊社ではSQLを書いて分析を行うことが当たり前になっています。こうしたスキルの組み合わせは業界内でも希少なため、自社で運用・分析を完結できるチームを組む方が実現したいことへの近道だと判断しました。こうした背景から、弊社では広告運用を数年前から内製化しています。

インハウスでの広告運用では、どのような課題があったのでしょうか。

小林:広告運用の成果を分析するためには、配信した金額や選定したキーワード、商品ごとのパフォーマンスといったデータをエクスポートするためのパイプライン構築と、広告配信サービスへ分析したデータをインポートするためのパイプライン構築、それぞれが必要になります。

最初の1, 2年は、専用のデータエンジニアチームがうまく回していたのですが、次第にエラー対応や保守対応だけでも上限いっぱいの稼働状況が続くようになりました。さらにWeb広告の媒体はAPIのバージョンアップのサイクルがとても短く、3ヶ月に1回はアップデートへの対応にリソースを割く必要があったのです。広告を出稿している媒体は多数あるため、ほぼ常に何かしらのマイグレーション対応をしていました。

その結果として、ビジネス側からエンジニアに「広告でこうした施策をやりたいから、分析のためのデータ転送をエンジニアに頼みたい」と考えても、エンジニアの稼働を確保できるのが数ヶ月後になるという状態でした。

こうした課題を解決するために、すべてを内製するのではなく、データエンジニアやデータアナリストの負担を減らすツールを導入すべきだと考えるようになったのです。

また、事業が拡大するにつれ、やりたいことが複雑化します。課題解決のためには、その複雑化した重要な領域に如何にリソースを投入できるかがポイントであるため、ルーチン化した業務は、SaaSの活用などなるべくリソースを必要としない方法を模索していました。     
データ活用の文脈においても、最も重要であるデータ分析の作業時間を確保するために、周辺業務であるデータ取得・整備に関する業務の効率化・アウトソーシングの手段を検討していました。

なぜtrocco®を選んだのか

対応コネクタの豊富さ、料金体系で比較。データエンジニア1人分のリソース軽減に相当すると試算

ETLサービスの比較検討はどのように進めたのでしょうか。

小林:媒体のAPIをつなぎ込んで、データを転送できるツールとして、ETLサービスには注目していました。

ETLサービスを比較検討するにあたって最初に重視したのが、私たちが広告を出稿しているGoogle広告やYahoo!広告がカバーされていることです。外資系の企業が手掛けているツールは、日本国内向けの媒体であるYahoo!に対応していないなど、ツールによって対応範囲に差があることが比較の過程で分かりました。

次に重視したのが、料金体系でした。他社のツールは転送するデータ量に応じた従量課金だったのですが、大量の商材を扱い、広告レポートやキーワードレポートのサイズが巨大になる弊社にとって、従量課金ではデータのエクスポートに多額の費用が必要になります。試算してみると、「trocco®︎」の月額利用料と文字通り桁違いの金額でした。
なお、比較検討後にPoC(Proof of Concept:概念実証)を実施したのは「trocco®︎」だけです。PoCでは、担当者の方にサポートしていただけまして、分からないことへの質問に対して迅速に答えていただけました。

「trocco®︎」の導入について、費用対効果をどのように試算しましたか。

小林:年間数十億の広告費に対し、「trocco®︎」の利用料金は大きくないため、社内の決裁はスムーズに下りました。ただ、金額は大きくないものの、社内決裁を申請する際には費用対効果を計算しています。

具体的には、「trocco®︎」のコストに対して、「trocco®︎」の導入によって浮くエンジニアのリソースを人件費換算しました。試算では、フルタイムのデータエンジニア1人分のリソースが「trocco®︎」によって浮くと想定できたため、費用対効果は高いと判断しています。

trocco®選定のポイント

導入までのスケジュール・過程

ワークフローとSlack通知を活用。データ収集におけるデータエンジニア稼働は不要に

「trocco®︎」の導入は、どのように進行しましたか。

小林:「trocco®︎」の導入には、およそ2ヶ月かかりました。以前に構築していたデータパイプラインと、今回新しく「trocco®︎」で構築したデータパイプライン、それぞれで作成した広告レポートがシームレスにつながるように調整しています。以前の広告レポートが古いバージョンのままだったため、カラム数などデータに差異があり、その差異をどう埋めながら移管していくかが少々苦労したポイントでした。

また、まず私だけで何本か広告レポートを試作し、後続のdbt(data build tool)で問題なく処理されるかを確認しています。その後、非データエンジニアの広告運用メンバーに担当を割り振り、それぞれ広告レポートを作成してもらっています。

trocco®導入までの流れ
今回設計、構築されたデータの流れと運用体制を教えてください。

小林:Google AdsやYahoo!検索広告などから「trocco®︎」を使用して、Google BigQueryにローデータを集約しています。そこから、クラウド版のdbtですべてのデータ加工を行い、最終的に分析に使える状態にまで整えます。

「trocco®︎」を活用しているのは、主に私たちマーケターであり、今ではデータエンジニアが広告のレポート作成に必要なデータを取得するという作業に一切かかわらなくなりました。

主に利用しているコネクタ入っている情報
Google Ads広告データ
Yahoo! 検索広告広告データ
Google BigQuery複数の広告媒体のデータ
社内に「trocco®︎」を浸透させるために、どのような工夫をしましたか。

小林:マニュアル作成には時間をかけています。これはビジネス側からデータについて新しい要求があった際に対応するデータ転送業務の属人化、つまり広告レポートを作成するマーケターを特定の人に偏らせたくなかったのです。そこでチーム内で共通ルールを設け、さらにマニュアルでは「trocco®︎」を含めたパイプライン全体の設定を対象にまとめています。

「trocco®︎」で特に活用している機能を教えてください。

小林:特にワークフロー機能は重宝しています。弊社は商材が多すぎることから、ひとつの媒体でも複数の広告アカウントを作成しています。

「trocco®︎」では、ひとつのデータ転送設定にひとつの広告アカウントしか紐付けることができないため、すべての広告データを転送するにはフローを並行させる必要があったのです。Google BigQueryに転送するためのカスタム変数も柔軟に設定でき、それほど手間をかけずに設定ができたところは高く評価しています。

また、弊社ではSlack通知機能をフル活用し、データ転送に失敗した場合に飛ばされる通知内容を工夫しています。

trocco®を利用時にエラーが出た際の通知をカスタムしている

小林:具体的には、それぞれの広告レポートに重要度を割り振って設定し、特に重要度が高いと判断された広告レポートのデータ転送に失敗した場合は、「今日優先的に対応してください」とSlackに通知されるという設定です。他にも、それほど優先度が高くない場合は「今日時間があるときに対応してください」と通知されます。こうしたSlackのエラー通知に対し、担当者がスレッドで返信することでどのエラーに誰が対応しているのか分かる仕組みになっています。

導入後の効果

以前の1/3の時間でパイプラインを構築。媒体APIのアップデート対応も不要に

以前に自作していたデータパイプラインと、「trocco®︎」導入後のデータパイプラインには、どのような違いがありましたか。

小林:広告媒体のAPIのバージョンアップに対応する必要がなくなったことが一番の違いで、とても助かっています。バージョンアップに起因するエラー対応がなくなり、その分のデータエンジニアのリソースが浮きました。経営全体で重要なプロジェクトがどんどん新しく作られており、より重要度の高い業務にエンジニアをアサインできるようになっています。

また、以前のデータパイプラインと違い、データインフラ自体がエラーで落ちてしまうことも、契約後に一度もありませんでした。

データ基盤の構成の変化
「trocco®︎」の導入で、どのような定量的成果を得られていますか。

小林:以前は1件のレポートパイプラインの構築に数週間もかかっていました。具体的には、ビジネス側とデータエンジニア側の間での取得するカラムや実行時間などを決めるためのコミュニケーションに時間と手間がかかっていたのですが、今ではデータエンジニアに負担をかけることなく、ビジネス側のマーケター自身が「trocco®︎」でデータの転送設定ができるようなっています。

結果、以前の1/3の時間、1週間ほどでパイプラインを構築できるようになっており、エラー対応も大抵は再実行だけで終わるため、1時間から10分ほどに短縮されています。さらにマニュアルや通知機能設定などを活用することで、年次の浅い若手マーケターでもデータ転送を設定できるようになっており、マーケティング業務の平準化を実現できています。

今回の取り組みについて、社内からの評価はありましたか。

小林:弊社ではクオーターごとに一度社内表彰があり、今回のプロジェクトを表彰していただけました。より重要な領域の業務にデータエンジニアやマーケターのリソースを注力できる環境が整ったことが評価されての表彰です。もともと広告レポートの作成は、内製するメリットがあまりない業務でした。広告媒体にアクセスし、必要な広告データが取得するのは誰がやっても同じことであり、そこに注力しても競合他社との差別化になりません。

trocco®で取得した各広告媒体のデータをdbtで加工して1つにまとめ、可視化したダッシュボード。各媒体ごとに色が分けられ、データの推移が示されている。毎朝のチームMTGで確認するようにしており、特定の広告媒体での獲得効率の変化や異常にすぐ気付ける体制を構築できている。

データ分析基盤の構築・リプレイスやダッシュボード作成についてお悩みの方はこちらよりご相談ください。

今後の展望

Web広告はビジネスの土台。今後も施策を積み重ね、PDCAを短く回していきたい

マーケティング業務における今後の展望をお聞かせください。

小林:経営全体の視点からも、既存のリスティング広告やディスプレイ広告といったWeb広告は、引き続き注力領域です。

「モノタロウ」のメインユーザーは製造業や建設・工事業、自動車整備業といった現場にいる方々と、彼らを支えるバックオフィスの方々であり、新規顧客の獲得と検索エンジンは密接に結びついています。「在庫がないのに急ぎで必要になった」「近くの店舗にも売っておらず、どこで買えるのか」といったお困りのお客様は、インターネットで探されるからです。だからこそ、その検索結果に「モノタロウ」が表示され、実際に求めている商品をご提示できることが、新規顧客を獲得する基本的な施策であり、ビジネスの土台でもあります。

基本的なマーケティング施策を積み重ねていき、さらに施策のPDCAサイクルを短くしていくためにも、今後も「trocco®︎」は必要なツールだと考えています。

加えて、データアナリストの採用強化にも取り組んでいかねばなりません。「trocco®︎」で転送したデータを整理する役割だけでなく、整理したデータを分析し、マーケティングのボトルネックを発見して広告のパフォーマンス改善に繋げられる人材を求めています。

「trocco®︎」の導入を検討している企業へ、アドバイスをお願いします。

小林:「trocco®︎」を開発、提供されているprimeNumber社は、マーケティングのオペレーションを支えていただいている、非常に頼もしい企業だと思っています。自社のプロダクトに関する事業だけでなく、セミナーやイベントといった「データ活用」の文化そのもののレベルを上げていこうとする取り組みをされていることは好印象ですね。

「データ活用」において、データを収集することがスタート地点です。これまではデータエンジニアにお願いしなければ難しい領域でしたが、「trocco®︎」によって非エンジニアであってもデータ活用の第一歩を踏み出しやすくなったのではないでしょうか。これからデータ活用に取り組むという企業や、弊社のようにインハウスでWeb広告を運用している企業などに、「trocco®︎」はおすすめできると思います。

編集後記

MonotaRO社のマーケティング部門はデジタルマーケティングの最前線で革新を追求し続けており、データドリブンなアプローチを通じて市場をリードしています。
trocco®を導入してデータパイプラインの効率化に成功し、データの透明性とアクセシビリティを高めたことで、データを基盤とした意思決定がさらにスムーズになり、マーケティング戦略の精度が飛躍的に向上しました。

マーケティングにおけるデータの利活用を進めていくことができるMonotaRO社のマーケティング部門は、分析力を発揮しながらマーケティングスキルを実践したいと思っている方にはとてもいい環境でしょう。
同社では、データ分析やオンライン広告のスペシャリストを募集しています。ご関心のある方は、ぜひ一度広告チームの方々とお話しされてみてはいかがでしょうか。

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株式会社MonotaRO

https://corp.monotaro.com/index.html

業種 小売
設立 2000年10月
従業員数 3,335人(2023年9月末時点)
事業内容 事業者向け工場用間接資材の販売