データ駆動型のビジネス環境で成功を収めるためには、情報の流れとその処理について理解することが不可欠です。そのためのキーとなる概念が、データパイプラインとETLパイプラインです。
データパイプラインは、データが生成されてから最終的に活用されるまでの過程全体を指し、データの流れとその処理を最適化します。一方、ETLパイプラインはExtract(抽出)、Transform(変換)、Load(ロード)の頭文字を取り、これはデータをソースから目的地まで移動させるプロセスを指します。
これらを適切に理解し利用することは、情報から有益な洞察を得るために重要なことです。
本記事では、これらの概念と両者の違いについて解説し、各々をどのように活用できるのかを紹介します。
データパイプラインとは

データパイプラインは、組織内外から収集される多岐にわたるデータの流れを統合し、洗練された形で事業の意思決定や戦略の駆動力とするための綿密なプロセスです。
このプロセスでは、アプリケーション、IoTデバイス、ウェブプラットフォーム、外部提供者からのデータなど、多種多様なデータソースを統合的に取り扱います。
近年、データパイプラインの構築は、従来の手動作業から、ETLツールや自動化プロセスを活用する半自動型の手法へと変化しています。
これにより、データの移行や整備がスムーズに行え、ヒューマンエラーのリスクが低減するようになり、その結果、組織はデータをより効果的かつ迅速に活用できるようになりました。
ここでは、データパイプラインの種類や仕組み、重要性、使用例を紹介します。
データパイプラインの種類と仕組み
データパイプラインは、幅広い処理方法と複数のカテゴリーによって構築され、その特性に応じて選択される重要な要素です。
この章では、データパイプラインの種類と仕組みについて、詳しく見ていきましょう。
まず、データパイプラインの種類について説明します。
データパイプラインの種類
バッチ処理
バッチ処理パイプラインは、大量のデータを定期的な間隔で効率的に処理・移動する方法です。定期的なバッチジョブを通じて、データをまとめて移動させるという特徴があります。
この処理は、月次の財務レポート作成やデータウェアハウスへのデータロードなどに活用されます。
リアルタイム(ストリーミング)処理
リアルタイムパイプラインは、データが発生するたびに即座に処理され、格納すべきデータソースに送信される方法です。データが連続的にストリームとして処理されるため、低レイテンシと高い信頼性が要求されます。
この処理は、センサーデータ、ウェブトラッキング、金融取引などのリアルタイムなイベントに適しています。
クラウドネイティブ処理
クラウドネイティブパイプラインは、クラウドベースのデータソースに最適化された方法で、クラウドプロバイダーのサービスを活用します。これにより、スケーラビリティやコスト効率が向上し、データの処理と保管が効率的に行えます。
そのため、開発者がインフラ関係の業務に縛られることなく別のタスクに専念できるというメリットがあります。
オープンソース処理
オープンソースパイプラインは、商用ツールの代替として提供され、カスタマイズが可能なパイプラインです。データの取得から処理、可視化までの一連の工程をオープンソースのツールで実現します。
しかし、特定のユースケースに合わせてツールを調整するには、専門的な知識が必要となります。
データパイプラインの仕組み
次に、データパイプラインの仕組みについて解説します。
データパイプラインは、主に下記の5つのプロセスで構築され、データの流れと変換を管理します。
1. データの取得
最初に、必要なデータを収集し、データソースから取得する工程が発生します。この工程では、データのフォーマットやプロトコルを考慮しながら、正確なデータを取り込みます。
2. データクレンジング
次に、取得したデータをクレンジングすることにより、不正確な情報や欠損データを取り除きます。この工程は、データの品質向上と整合性維持を確保するための重要なステップです。
3. データの探索とモデリング
クレンジングされた後のデータは可視化ツールの使用により探索され、パターンや異常値が発見されます。この工程では、機械学習を活用してデータモデルが構築され、将来の動向予測や傾向分析が行われます。
4. データの可視化と共有
その後、データの可視化と共有がされます。この工程は、ダッシュボードやレポートを通じてデータの意味を理解し、意思決定や共有のための有益な情報を導き出すための重要な作業となります。
5. データの修正
最後に、ビジネス要件やデータの変更に合わせて、データパイプラインは定期的に見直され、必要な修正や更新が行われます。
これにより、データの流れと解釈が最新の状態を反映します。
上記の全てのステップは、データパイプラインの中核を形成し、正確で価値あるデータの移動と変換を実現します。
適切なデータパイプラインの種類を選択し、構築することで、ビジネスの効率向上や意思決定の品質向上などの目標を達成できます。
データパイプラインの重要性
以下の6つの観点から、データパイプラインは重要であるといえます。
迅速に意思決定ができる
データ収集・データクレンジング・変換の各プロセスを効率化し、意思決定プロセスを迅速化します。これによって、迅速な対応や優れた戦略の策定が可能となります。
データに効率的にアクセスできる
データパイプラインの活用によって、社内の各関係者は必要なデータに効率的にアクセスすることができます。その結果、情報共有と協力が効果的にできるようになり、社内全体の生産性が向上します。
高速にデータを分析できる
データの前処理や変換を効率的に行い、データ分析のスピードを向上させます。これにより、新たな洞察を素早く把握し、ビジネスの成果を最大化します。
企業と取り巻く環境に柔軟・俊敏に対応できる
変化するビジネス環境にスピーディに対応できる柔軟性がもたらされます。その結果、社内で素早く新たなニーズや機会に対応できるようになり、競争力の維持が図れます。
深いインサイトが得られる
データパイプラインを通じて整備されたデータは、詳細なレベルでの分析やインサイトの掘り下げが可能となります。これによって、トレンドに共通するパターンの発見が促され、より戦略的な判断が可能となります。
データ統合で効率化できる
データパイプラインはデータの統合を実現し、データ品質の向上とデータの流れの効率化を促進します。その結果、社内データのサイロ化が解消され、情報の一元化が実現します。
データパイプラインの使用例
データパイプラインの使用例としては、下記の4つを紹介します。
予測分析
予測分析はデータパイプラインの強力な応用分野です。
交通業界では道路プロジェクトが交通へ与える影響を評価するためにデータパイプラインを使用しています。これによって道路工事の影響を事前に予測でき、適切な対策を計画することができます。
リスク分析
金融業界ではデータパイプラインがリスク分析に活用されています。
複雑なデータを整理し、競合他社の動向や市場の変化、顧客の行動からリスクのインサイトを得ることで、適切な戦略策定をサポートします。
リアルタイム分析
リアルタイム分析ではデータパイプラインが迅速な意思決定の一助を担います。
たとえば金融業界では、不正取引の検出にリアルタイムのデータパイプラインを利用しています。取引が行われると、そのデータは即座に分析され、異常なパターンが検出された場合にはアラートが発生します。
それ以外にも、eコマース分野では、顧客の行動データを収集し、ETLパイプライン経由で分析して、個別の商品をおすすめするレコメンドシステムにデータパイプラインが応用されています。
同様に、ソーシャルメディアのトレンド分析業務でも、ストリーミングデータパイプラインがリアルタイムのデータを分析してトレンドの把握に役立っています。
リサーチ
医療分野でもデータパイプラインは非常に有用な手段です。
研究を支援するために、MRIやX線写真の画質を向上させる方法を探る研究では、データパイプラインを用いることによって医療技術の進歩が促進され、新たなインサイトがもたらされています。
ETLパイプラインとは

ETLパイプラインについて説明する前にETLという概念をよく知らないという方に向けて、ETLとは何かについて触れておきます。
ETL(Extract, Transform, Load)は、データ分析の基盤であり、データの抽出・変換・格納までの重要な各工程を指します。ETLプロセスは、急増するデータの複雑さに対処し、一貫性を持ったデータベースに変換して格納する基盤です。特に、ビジネスインテリジェンス(BI)ツールを使用したデータ分析において重要な役割を果たします。
ETLはデータの質を向上させ、ビジネスの競争力を高めるための重要なステップだといえるでしょう。
それでは、ここからはETLパイプラインについて説明します。
ETLパイプラインの仕組み
ETLパイプラインは、前述のように「抽出(Extract)」、「変換(Transform)」、「格納(Load)」という3つの工程から成り立っています。
このプロセスを支える各構成要素として、「コンポーネント層」「ワークフロー層」「パイプライン層」という3つの要素があります。
それぞれの概要について解説します。
コンポーネント層
ETLパイプラインを形成する部品で、ETLジョブや実行トリガ、通知などがこの要素に含まれます。
ETLジョブは処理の実行を担当し、実行トリガはパイプラインの実行条件を指定し、通知は処理の進捗状況を開発・運用チームに通知する役割を果たします。
ワークフロー層
異なるコンポーネントを結びつけて一連の処理をまとめたものをワークフローと呼びます。このワークフローエンジンを利用して、ワークフローの管理と実行の調整が行われます。
パイプライン層
複数のワークフローを組み合わせて特定の目的を達成するためのパイプラインがこの層です。この層によって、データの処理や流れが最適化され、ビジネスのニーズに適合したデータ処理が行われます。
ETLパイプラインの重要性
以下4つの理由から、ETLパイプラインは重要だと考えられています。
エラー・コスト削減や属人化を解消できる
ETLパイプラインは、ビッグデータの処理を効率化し、データサイエンスやビジネス分析を効率化するための重要な手法です。
その根本的な目的として、自動化によって人手による運用を最小限に抑えることがあります。
従来の手動処理では、ヒューマンエラーのリスクや運用コストの増加、スキルの属人化などが問題として浮上しますが、ETLパイプラインの導入によってこれらの課題解決が図れます。
より深い分析ができ、BIを実現する
ETLの各工程を通じてデータの価値を最大限に引き出す役割を果たします。
特に、深い分析やビジネスインテリジェンス(BI)の実現には欠かせない要素です。
データを適切な形式に変換し、必要な情報を抽出することによって、ビジネス戦略策定やインサイトを得るための基盤を築きます。
効率的にデータを処理し、リソースを最適化できる
同様に、ETLの各工程を通じることによって、データを活用可能な形に整えるだけでなく、手間をかけずに効果的なデータ処理ができるようになります。それにより、開発者は別の業務にリソースを割くことができ、より重要な業務に集中することができるでしょう。
データ管理の負担を減らせる
ETLパイプラインの採用によって、データ管理におけるマイグレーションや同期などの恩恵を享受できます。
特に、大規模なデータセットを効率的に扱う場合、ETLパイプラインを活用すればデータ移行や整合性の確保などの作業がスムーズに行えるため、ビジネスプロセスの連続性を維持することが可能となります。
ETLパイプラインの使用例
ETLパイプラインは以下のように使用されています。ここでは3つの例を紹介します。
複数のデータソースの統合
私たちを取り巻く現代のビジネスでは、多様なデータソースから情報を収集することが求められます。こうした多種多様なデータを一元的に活用するために、ETLパイプラインが重要な役割を果たします。ETLを通じて、異なるソースからの情報をまとめて処理し、有用な洞察を得られます。
たとえば、ソーシャルメディアのデータやウェブサイトのアクセスログ、顧客の購買履歴など、異なる情報源を統合することで、総合的なビジョンを獲得し、効果的な戦略立案が可能となります。
データの一元管理・分析
競争の激化するビジネス環境において、有用な意思決定は通常、データを根拠に行われます。
しかし、散在するデータは全体像を理解する障壁となることがあります。
ここで、ETLパイプラインが大きな助けとなります。
異なるデータソースから得た情報を統合し、一元的なデータウェアハウスに蓄積することで、高度な分析や洞察を行う土台が整います。このような統合されたデータを活用することで、マーケティングキャンペーンの成果評価や顧客行動の分析など、戦略的な判断が容易になります。
顧客の購買データの理解やレコメンドシステムの構築
顧客の行動パターンを理解し、個々人のニーズに合わせたサービスを提供することは、ビジネス成功の鍵となります。
この際に、ETLパイプラインは、顧客の購買データを集約し、深層分析を通じて顧客の嗜好や傾向を把握するための基盤を提供します。
その結果、過去の購買履歴を基に、関連する商品を推薦するレコメンドシステムを構築できるほか、顧客のニーズに的確に応えることができるようになります。
データパイプラインとETLの違いと役割

データパイプラインとETLパイプラインは、データを一つのシステムから別のシステムに移動するプロセスを指しますが、微妙な違いが存在します。その違いを4つにわけて説明します。また、それぞれの役割についても説明します。
データパイプラインとETLの違い
包括的な概念
データパイプラインは幅広い意味を持つ包括的な概念で、そこにはETLパイプラインの概念も含まれています。
対照的に、ETLパイプラインはデータの「抽出(Extract)」「変換(Transform)」「格納(Load)」のプロセスに特化したデータパイプラインです。
データパイプラインは、データの格納だけでなく、他のシステムへのトリガーを通じて新たなプロセスやフローを開始する場合もあります。
データ変換の有無
ETLパイプラインでは、データを抽出した後に変換し、適切な形式や構造に整えてからデータをロードする作業が一般的ですが、データパイプラインは単にデータの移動を行い、変換が不要なことが一般的です。
実行方法の違い
ETLパイプラインは通常、一定のタイミングでデータをバッチ処理する方法が採用されます。
一定期間のデータが蓄積され、その後に一括で「変換(Transform)」「格納(Load)」が行われます。
一方、データパイプラインはリアルタイムに実行され、データの連続的な移動と更新が可能であるため、データの素早い反映が実現されます。
プロセスの継続性
ETLパイプラインは、データがデータウェアハウスやデータベースに「格納(Load)」された段階でプロセスが終了します。
一方で、データパイプラインは、他のプロセスやフローをトリガーして持続的なアクションを開始する場合があります。
この継続性によって、データの移動だけでなく、新しいプロセスが展開される場合があります。
それぞれに求められていること
データパイプラインとETLパイプラインには、それぞれに特有の要求事項が存在します。
データパイプラインに要求されること
データパイプラインは、シームレスなデータ移動を促進する役割を果たすため、下記の要求を満たすことが求められます。
リアルタイムなデータストリーム
データパイプラインは、データのリアルタイムな移動を実現する必要があります。
データが瞬時に更新される場合でも、遅延を最小限に抑えて移動することが求められます。
異なるソースの統合
また、異なるデータソースからのデータを統合し、一貫性のある形式で提供することが望まれます。
そのため、複雑なデータ形式や構造の違いを克服し、統合されたデータの価値を最大化する能力が必要とされます。
柔軟なデータ変換
それ以外にも、データパイプラインは、データの変換をサポートし、必要に応じてデータを適切な形式に整えることが求められます。
そのため、異なるシステム間でのデータ整形やエンリッチメントがスムーズに行えることが重要となります。
ETLパイプラインに要求されること
ETLパイプラインは、データの「抽出(Extract)」「変換(Transform)」「格納(Load)」を通じて高度なデータ活用を支援するため、以下の要求事項が存在します。
高度なデータ変換
ETLパイプラインは、データを抽出して洗練し、ビジネスニーズに合わせた形式に変換します。そのため、複雑なデータマッピングや変換ルールを柔軟に適用できる能力が求められます。
効率的なバッチ処理
大量のデータを効率的にバッチ処理するための機能をサポートしているため、定期的なデータの移動と変換を効率よく実行し、ビジネスプロセスに適したタイミングでデータを提供することが望まれます。
信頼性とエラーハンドリング
また、データの品質を保ちつつエラーをハンドリングする機能が必要とされます。これは、データ品質の低下や変換エラーに対処し、正確なデータの供給の確保につながるためです。
変化への適応性
上記以外にも、ETLパイプラインは、データソースやビジネス要件の変化に対応できる柔軟性が求められます。これは、新しいデータソースの統合や変更されたビジネスルールにスムーズに対応し、持続的な価値を提供するためです。
データパイプラインとETLパイプラインは、それぞれ異なる側面に焦点を当ててデータの移動と変換を支援します。
事業成功のためには、ビジネス要件とデータの特性に合わせて適切なパイプラインを選択し、要求事項を満たす設計と運用を行うとよいでしょう。
まとめ

本記事では、データパイプラインの概要やその特徴、ETLパイプラインとの違いやそれぞれに要求されることについて説明しました。
それぞれ要求に合わせ複雑な構造をしていますが、中でもETLパイプラインを構築するためには通常、データエンジニアの助けが必要となります。
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