近年、企業におけるデータ活用の重要性が増していますが、その中で「データのサイロ化」という課題が浮き彫りになっています。
データのサイロ化とは、異なる部門やシステム間でデータが断絶され、効率的なアクセスや活用が難しくなる現象を指します。このサイロ化は、意思決定の遅延やビジネスチャンスの損失といったリスクを招くため、その回避が急務となっています。
本記事では、データのサイロ化とはどのような状態であるか、またデータのサイロ化に陥る背景や影響について解説します。また、適切な対策方法やデータのサイロ化を解消した事例も併せて紹介します。
データのサイロ化とは?

データのサイロ化とは、組織内の異なる部門がデータを独立して収集・管理し、部門間連携が不足しデータが散在している状態を指します。
「サイロ」とは、英語で家畜飼料等の貯蔵倉庫のことです。この貯蔵倉庫は内部がつながっておらず、それぞれの内容物が独立した構造であることから転じて、組織間でデータの連携が取れていない状態を「データのサイロ化」と表します。
データのサイロ化が解消されなければ、組織内での情報共有が円滑に進められず、ビジネス戦略を効率的に立てられなかったり、組織をまたいだ横断的なデータ活用が実施できなかったりします。データのサイロ化の解消は、データ活用の質の向上や戦略的な意思決定のために非常に重要な課題なのです。
データのサイロ化に陥る主な原因

データのサイロ化は現代の企業活動における一大課題となっていますが、これにはさまざまな背景や状況が関係しています。
ここでは、組織構造、技術的な制約、そして非デジタルなデータの取り扱いを主な原因として挙げ、解説します。
データのサイロ化の原因を理解することで、サイロ化の問題を防いだり解決したりする手助けとなるでしょう。
組織間での連携が不足している
ビッグデータやクラウドサービスなどが台頭する以前の時代では、データが各部門に点在していることが、必ずしも悪い状況ではありませんでした。たとえば、機密性の高いデータを特定の部門などの制限された範囲内で保持することは、セキュリティ・プライバシーの観点から有用な手段でした。
このような時代背景から、現在でも多くの企業が部門ごとに独立して業務を行っています。各部門によって課題やプロセスが異なるため、必然的に業務を隔離するようになるのです。
こういったシステムが企業文化として定着すると、マーケティング部と営業部で同じ顧客データを扱う際にも、疑念を抱くことなくデータを連携させずに管理してしまうケースがあります。
技術的な制約がある
組織内で部門によって異なるシステムやプラットフォームを用いており、部門間でのデータ連携が十分にできていないことも、データのサイロ化の原因になります。
システム間でのデータ連携を想定せずにシステム構築を行ってしまうと、のちに個別で導入したシステムを連携しようとした際に、データの加工やシステムの改修が必要となってしまいます。
また、システムによってはデータフォーマットが異なり、そもそもデータ連携が不可能なケースもあります。各システムは、特定の業務を効率化するために最適化されているため、システム間での互換性がない可能性があり得るのです。
アナログデータを扱っている
石油化学や電力業界などの企業では、高度経済成長期に作られた設備を使い続けている可能性があります。その場合、手作業での読み取りが必要となるため、デジタルデータへの変換が困難なのです。
紙の文書や写真などの非構造化データを扱っている場合も、デジタルデータへの変換や必要な情報の抽出が困難であるため、データのサイロ化を招く可能性があります。加えて、これらのデータは物理的な形態を持っているため、デジタル形式に比べて共有やアクセスが容易ではないのです。
データのサイロ化がもたらす影響

データのサイロ化は、組織の効率性や意思決定プロセスに悪影響を及ぼします。情報のアクセス性の低下や高まる管理コスト、意思決定の遅れ、さらには顧客との関係構築における機会損失といった問題が生じることがあります。
以下では、これらの影響についてくわしく説明します。
情報へのアクセスが非効率的になる
データのサイロ化が進むと、必要なデータにアクセスするために関連する各部門やシステムに移動する手間が生じるため、情報へのアクセスが非効率になります。
データがサイロ化していると、同じ情報が異なるデータベースに保存され、データの整合性が脅かされる可能性があります。また、部門やシステムが独立していると、更新が反映されるまでに時間がかかり、データの正確性も失われてしまうでしょう。
さらに、データが統合されていないことにより、日々のデータ入力などの単純作業が自動化できず、作業効率や生産性の低下につながるおそれがあります。全社的な業務効率化を目指すためにも、データのサイロ化を解消する必要があります。
データを管理するコストや手間がかかる
データが部門やシステムごとに孤立すると、データの重複が増加し、それに応じて管理コストが増大します。
たとえば、システム運用や、それぞれの場所でのセキュリティとコンプライアンスの確保のために、追加のコストがかかります。そのほかにも、データの整合性の保持やデータの統合に追加のコストが生じるでしょう。
データのサイロ化が起きている組織では、「いざ蓋を開けてみると、複数の部門データが重複したデータを管理していた」といったケースが多々あります。限りあるリソースを有効的に活用できるよう、こういったケースでコストを無駄にすることは避けなければいけません。
意思決定のスピードが鈍化する
意思決定に必要なデータが各部門に点在していると、データを収集するために各部門に依頼しなければならず、組織の意思決定が遅くなる可能性があります。
どのようなアクションをとるにしても、データのサイロ化が起きている組織では、「どの部門がどのようなデータを管理しているのか」を把握するところから始めなければなりません。これでは、本来の目的ではないデータの収集に時間をかけてしまいますし、寄せ集めのデータからは正しい解釈や質の高い分析は困難です。
データドリブン経営を実現するためには、意思決定に必要なデータに迅速にアクセスできる必要があります。迅速な意思決定を可能にするには、各部門に点在するデータを統合し、データのサイロ化を解消することが前提となるでしょう。
営業活動における機会損失がある
近年、カスタマー・エクスペリエンス(CX)やカスタマー・エンゲージメント(CE)といった言葉が関心を集めています。これらにおいて重要となる「顧客観点でのコミュニケーション」には、統合されたデータが不可欠です。
CXやCEの取り組みは、どこかの事業部が単独で行えるものではなく、マーケティング部や営業部、カスタマーサポートの事業部などの多くの人が関わって推進するものです。このような横断的な取り組みを実現するには、各部門の顧客情報を統合的に分析し、コミュニケーションを行う必要があります。
顧客満足度の高いサービスを提供するためには、各部門の顧客データを利用した、質の高い分析を行うことが重要です。顧客とのつながりを強化するためには、まず組織内に点在したデータを統合することから始める必要があるでしょう。
データのサイロ化を解消する方法

データのサイロ化を克服するための主なアプローチは二つあります。
一つは技術的手法として、データ分析基盤の構築や導入を通じてデータを一元管理すること、もう一つは組織的手法として、データガバナンスの強化を行い、データの取り扱いやアクセスのルールを明確にすることです。
これらの手法を適切に組み合わせることで、データのサイロ化を効果的に解消し、組織のデータ利用効率を高めることが可能になります。
データ分析基盤を構築する
データのサイロ化は、組織内に点在するデータを一元管理することで解消されます。したがって、技術面においては、データ分析基盤の導入・構築が有効な手段のひとつです。
データ分析基盤の導入により、データフォーマットが統一され、異なるデータソースからの情報を容易に統合できます。また、リアルタイムでの情報共有が可能になるため、部門間での情報共有がスムーズになり、迅速な意思決定が行えます。
ただ、既に分断されてしまったデータは再び統合することが困難であるため、これ以上サイロ化しないような環境を構築することが大切です。
データガバナンスを強化する
組織面においては、データガバナンスを強化することがデータのサイロ化を解消するために有効です。
データガバナンスを強化することで、データの定義や保存形式が統一され、異なるシステムや部門間でもデータの整合性が保たれます。また、データへのアクセス権限や共有のルールなどを明確化することにより、必要な情報へのアクセスが効率的に行えるようになります。
データガバナンスを強化することで、既にサイロ化しているデータを統合することは難しいでしょう。ただ、データガバナンスの強化は、サイロ化した状況を悪化させないために非常に重要な取り組みといえます。
データのサイロ化を解消した3つの事例

ここでは、データのサイロ化を解消した事例を3つ紹介します。
株式会社アイスタイル
株式会社アイスタイルでは、組織内におけるデータ活用の需要が急拡大するにつれて、部門ごとにデータパイプラインが量産されていました。データのサイロ化が進み、データマートとデータパイプラインの利用性・保守性が低い状態となっていたのです。
そこで、データ分析基盤総合支援サービス「trocco®」を導入し、データパイプラインの見える化・データマートの共通化を図りました。
trocco®の導入後は、173のワークフローと237のデータマートの可視化に成功し、誰もがデータパイプラインの作成者と目的がわかるようになりました。さらに、Slack連携や適したSLAを定めたことで、ワークフローの作成者以外にもエラー検知・復旧ができるようになり、脱属人化を実現したといいます。
本事例の詳細はこちらをご覧ください。
ジャパン・リニューアブル・エナジー株式会社
ジャパン・リニューアブル・エナジー株式会社は、太陽光や陸上風力、バイオマスなどの再生可能エネルギー発電を手掛ける会社です。同社では、発電所ごとのデータは可視化されていましたが、それぞれの発電所が有機的に連携できておらず、データのサイロ化が課題となっていました。
そこで、データ分析基盤総合支援サービス「trocco®」を導入し、すべての発電所の発電実績データを統合・分析し、発電量予測などへの活用を行います。また、発電所同士だけではなく、外部データと社内システムにあるデータを連携し、未来の発電量を精緻に予測できる状態を目指します。
導入後は、別のサービスの活用やフルスクラッチによる内製で実装した場合と比べて、1/2以下の工数でデータ連携が実現できました。さらに、天候と機器故障のパラメータを統合し、分析結果を可視化することで、新たなインサイトを得られる可能性があるといいます。
本事例の詳細はこちらをご覧ください。
株式会社ホワイトプラス
株式会社ホワイトプラスでは、部署ごとにデータの抽出に関する判断を委ねていたため、データのサイロ化が進んでいました。その結果、データは存在しているものの、その存在をほかの部署の人たちが知らないために、何回もデータ抽出の依頼がくる状態になっていたのです。
そこで、データ分析基盤総合支援サービス「trocco®」を導入し、データのサイロ化の解消に努めました。また、組織内においてデータ活用をより身近にすることで、事業全体としてデータドリブンな意思決定を実現させます。
導入後は、半日かかるような10年分のLTV集計が、BigQueryで行うと3分以内に完了できるようになったといいます。さらに、同じデータを関係者がすぐに共有できるようになり、コミュニケーションコストが大幅に下がりました。
本事例の詳細はこちらをご覧ください。
まとめ

本記事では、データのサイロ化とはどのような状態であるか、またデータのサイロ化に陥る要因や解消法などを解説しました。
現代では、データドリブン経営がビジネスにおいて重要な鍵を握っていますが、データのサイロ化が起こっている組織では、データ活用は効果的に行えません。しかし、本記事でご紹介したように、技術面や組織面から適切な対処を実施することで、データのサイロ化は解消できます。
分析基盤総合支援サービス「trocco®」では、ETL機能を中心として、データの運用に役立つさまざまなサポートを提供しています。分析基盤の構築は、データのサイロ化を解消するために非常に効果的な手段です。サイロ化している現在の状態を改善したいと考えている方は、導入を検討してみてはいかがでしょうか。
trocco®は、ETL/データ転送・データマート生成・ジョブ管理・データガバナンスなどのデータエンジニアリング領域をカバーした、分析基盤構築・運用の支援SaaSです。trocco®について詳しく知りたいという方は、以下より資料をご請求ください。
