昨今、企業にとって、膨大なデータを効率的に管理し活用することは、ビジネス成長の鍵を握る重要な要素となっています。しかし、さまざまなシステムやプラットフォームに分散して蓄積されている「データのサイロ化」が問題となっている企業は少なくないのではないでしょうか。また、データを一元的に管理することは、困難で時間もリソースも必要な作業で、なかなか解決のために動けていないという企業もあるでしょう。

そこで重要となるのが、データファブリックという概念です。本記事では、データファブリックとは何か、その役割やメリットについて解説し、データファブリックを実践するためのポイントを紹介します。

データファブリックとは

データファブリックは、企業内外の関連データを一元管理し、データ活用をするための設計概念のことを指します。データファブリックを用いればデータの一元化と効率的な活用を実現し、データサイロの問題を解消することができます。また、データの価値を最大化し、デジタルトランスフォーメーションの推進にも役立ちます。さらに、データガバナンスやデータ管理の負担軽減も期待できます。このようにデータファブリックは現代のデータ管理と分析において非常に重要な概念であり、データファブリックを適切に実施できた企業は競合からより容易に一歩リードすることができると言っても過言ではありません。

データファブリックへの注目が高まっている理由

データファブリックへの関心が高まっている理由は何点かありますが、その一つは、データセントリックな組織が直面するさまざまなハードルを克服するための総合的なアプローチができることです。

データファブリックは、データが世界を覆う「布」というイメージのもと作られた言葉です。データファブリックを実施することにより、ユーザーはどこにいても必要なデータにリアルタイムにアクセスできます。

従来のETL中心のデータ統合では、リアルタイム連携やセルフサービス、自動化などの新たなビジネス要件に対応できませんでした。しかしデータファブリックであれば異種のデータの統合やキュレーション、データの突合にも柔軟に対応し、包括的なビューを提供するための重要な処理を実現します。データファブリックを導入することで、企業は競争力を高め、顧客要求に応え、システムを近代化し、クラウドの活用ができるようになります。

さらに、データファブリックの導入により、データを管理する際の煩雑化が軽減され、データが適切に管理できなくなるリスクも低減されます。企業内には多様なデータが分散しており、それらのデータを効果的に活用するためには、データの収集・変換・仮想化などの手間が必要です。データファブリックは統合プラットフォーム上でこれらの管理を一元化し、ハイブリッドクラウド環境でもサイロ化を防止することができます。

それ以外にも、セキュリティの強化や災害対策も提供し、セキュリティリスクの低減に寄与します。

データファブリックと他のアーキテクチャの違い

データウェアハウスとの違い

データファブリックとデータウェアハウスは、どちらもデータの管理と活用において異なる役割を果たし、アプローチも異なっています。

データウェアハウス(DWH)は、多様なシステムから収集されたデータを最適化して保管し、データ分析を可能にするデータベースのことを指します。通常、大量のデータを時系列に整理し、データ管理や分析に利用されます。かつてはデータの探索や削除に手間がかかりましたが、DWHが導入され、データの抽出や重複排除などの作業が容易になりました。

データファブリックは、データウェアハウスのアーキテクチャの進化系と言うことができます。データファブリックは、メタデータとAIを活用して関連データを発見することに重点を置いているアーキテクチャのことを指します。オンプレミスやクラウドなどのデータ環境にアクセスし、高速かつ多目的にデータを活用することができます。このように、データファブリックの導入によって、重要なデータへのアクセスの迅速化やセキュリティの構築、ストレージの最適化などが実現されます。

データレイクとの違い

データファブリックとデータレイクは、データ管理において異なるアプローチを提供しています。

データレイクは、構造化データと非構造化データをそのまま保存する中央ストレージリポジトリです。データの形式を変更せずに保持できるため、柔軟なデータ保持が可能です。また、多様な分析や処理を実行できるため、ビッグデータ活用に役立ちます。データの検索性も高く、識別子とメタデータタグを活用して効率的な検索が可能なことも特徴の一つです。通常、データレイクは、安価でスケーラブルなハードウェア上に構築され、クラウドやオンプレミス環境に配置できます。

一方、データファブリックは、ハイブリッドなマルチクラウド環境において一貫したデータ管理機能を提供するアーキテクチャです。データファブリックは、クラウド、オンプレミス、エッジデバイスなど、さまざまな環境にわたってデータの可視化、インサイト、アクセスとコントロール、保護とセキュリティなどの機能を統合することにより、データの統合管理とセキュリティの強化を実現し、組織に多くのメリットをもたらします。

データメッシュとの違い

データファブリックとデータメッシュも、異なるアプローチを通じてデータ管理の課題に取り組んでいます。

データメッシュとは、特定のビジネスドメインに基づいてデータを編成し、非集中的なアーキテクチャを提供することです。データセットのプロデューサーに所有権を与えることで、データにより多くの意味を与えることができます。データメッシュの実施によって、マーケティングデータや売上データ、顧客サービスに関するデータなど、ビジネスドメインに応じたデータの整理とデータへのアクセスが容易になります。

一方、データファブリックは分散型かつ非中心的な所有権を活用してデータセキュリティの課題に取り組みます。データファブリックによって、データアクセスやセキュリティが向上するため、組織内でのデータの効率的な利用が可能となります。

データファブリックとデータメッシュは、どちらもデータ管理の新たなパラダイムを提供しており、組織はこのようなアプローチを活用することで、データの価値を最大限に引き出すことができます。

データ仮想化との違い

データファブリックとデータ仮想化は、どちらもデータの価値を最大化するための重要な手段であり、データ管理におけるアプローチが異なります。

データ仮想化はデータの連携と柔軟なアクセスに重点を置いており、データソースからのデータ取得を必要としない代わりに、すべてのデータを連携して提示するという特徴があります。社内メンバーは、データの元の形式や保存場所に関係なく必要なデータに即座にアクセスできます。

一方、データファブリックは、データを一元的に管理するための技術です。データの一元的な管理、アクセス制御とセキュリティ強化、データの可視化を通じた分析と活用を目指します。メリットとして、組織全体で収集された情報を一元的に管理し、多様な情報にアクセスし活用することを容易にするということが挙げられます。

データファブリックの役割とメリット

データファブリックの実施のメリットとしては、以下の4つが挙げられます。

  • データの転送、処理、管理、保存などを自由に行える
  • 効率的なデータの活用ができる
  • データ管理の煩雑化・サイロ化の解消
  • データガバナンスの強化

それぞれについて詳しく説明します。

データの転送、処理、管理、保存などを自由に行える

データの転送、処理、管理、保存などを自由に行えることにより、企業内のさまざまな環境に存在するデータソースにいつでもアクセスできます。このデータソースはデータの統合プラットフォームで一元管理も可能であるため、データ管理者の負担軽減につながります。

効率的なデータの活用ができる

企業内のデータにいつでもアクセスできる環境を整えることで、データを迅速に収集し、効率的に活用することが実現します。そのため、データを根拠にしたシステム開発やマーケティング活動など、多様な取り組みが可能となり、結果として企業全体の生産性向上が期待できます。

データ管理の煩雑化・サイロ化の解消

企業内でデータの共有や連携が困難な状況を改善し、データの一貫性を保ちながら情報を共有できるようになるため、結果として業務効率化やカスタマーサービスの品質向上が実現します。

データガバナンスの強化

データへのアクセス権限の設定や操作制限により、セキュリティレベル向上が図れます。さらに、データのバックアップや冗長化も可能です。そのため、災害やサイバー攻撃によるデータの損失リスク軽減ができます。

データファブリックのユースケース

ここでは、データファブリックのユースケースを3つ紹介します。

データサイロ化の解消

データファブリックを社内に取り入れることで、データサイロ化の解消が図れます。従来のシステムに依存するデータベースを廃止し、データをシステムから独立させることが可能となるため、結果としてデータが煩雑化し情報共有が困難となる事象が解消し、柔軟で安全な環境が提供できます。

セキュリティ遵守の体制強化

デジタルを中心とした今日の社会では、データのプライバシー要件・セキュリティ要件の重要性が増しています。データファブリックを実施すれば、データの管理とコントロールを統一的に行い、データのセキュリティを担保できます。

医療機関と学術機関でのデータアクセシビリティ向上

医療機関や学術機関の分野において、データの共有と知識の共有は最重要課題となっています。この場合にデータファブリックを用いれば、安全かつ柔軟な環境を提供し、大量の重大データとコンテンツを安全に保存できるため、結果として研究者がデータに快適にアクセスできる一端となります。

データファブリックを成功させるためのポイント

データファブリックを成功させるためには、大きく3つのポイントがあります。

  • データの統一性とアクセシビリティの確保
  • 強固なガバナンスとセキュリティ体制
  • データ分析と活用のための技術力

それぞれを実践するためにはさらに取り組みが必要になりますが、愚直に実行することが成功の鍵となります。

データの統一性とアクセシビリティの確保

データファブリックの目標は、データを一元的に管理し、そのアクセシビリティを確保することです。この目標を実現するためには下記の取り組みが必須となります。

統一性の確保

異なるソースから取得したデータを統合する際には、データの形式や品質を統一することが重要となります。データの形式や命名規則、データ品質の基準について定義し、一貫性のあるデータ環境構築を心がけましょう。この取り組みによって、データの品質向上やデータの相互利用が可能となります。

アクセシビリティの向上

データのアクセス制御やデータの共有方法を適切に設計することで、必要なデータに容易にアクセスできる環境を整えることができます。また、データの可視性向上のために、データ検索機能やデータカタログの導入も検討しましょう。

強固なガバナンスとセキュリティ体制

データファブリックは大量のデータを扱うため、データのガバナンスとセキュリティに十分な注意を払う必要があります。その際には、下記の作業を行いましょう。

データの利用権限やアクセス制御

データの利用権限を明確に定義し、適切なアクセス制御を実施することによって、データの機密性やセキュリティを担保します。権限ベースのアクセス制御や強力な認証手段を導入することで、不正アクセスやデータ漏洩のリスクを最小限に抑えましょう。

データ品質の管理

データの品質を保つための管理プロセスを明確にすることで、データの正確性・完全性・信頼性を維持します。データクレンジングやデータの重複排除、エラー修正などを実施し、データ品質向上に努めましょう。また、データの変更履歴を追跡することにより、データの信頼性を高めます。

データ分析と活用のための技術力

データ分析と活用のための技術力を付ける試みとして、下記のアプローチを取りましょう。

AIや機械学習の活用

AIテクノロジーや機械学習などの先進技術を駆使してデータを解析することで、有用な情報を抽出する精度が高まります。そのために、データサイエンティストやデータエンジニアを採用・社内プログラムを実施しスキルを磨いてもらいましょう。また、適宜必要なツールやソフトウェアを導入することで、最大の価値を引き出すことができます。

データ活用の文化を醸成

データ活用のための意識や文化を社内全体に浸透させる活動を行うことで、データ分析と活用のためのベースとなるリテラシーが向上します。社内メンバーにデータの重要性や活用方法について教育し、データドリブンな意思決定を促進しましょう。

まとめ

データファブリックの実施はデータサイロ化を解消し、データ一元管理・データの価値最大化を実現します。しかし、データファブリックを成功させるための取り組みとしては、「データファブリックを成功させるためのポイント」で記した通り、非常に多くの工程と手間、そしてデータファブリックという概念自体への深い理解が必要となります。

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