バンダイナムコグループは、同グループがさまざまなファンとつながること、また、ファン同士のつながりを育むことを目指し、「Connect with Fans」を中期ビジョンに据えています。その中で、コアとなる資産であるIP(キャラクターなどの知的財産)の価値を最大化させることはビジョンの実現にとって不可欠です。

本セッションでは、バンダイナムコネクサス社のデータ基盤を紹介しながら、同社のデータマネジメントやIPデータの管理・活用の環境がどのようなものか、そしてデータ活用によって得られた成果についてお話しいただきました。

※本記事は2023年11月28日に開催されたprimeNumber社主催イベント「01(zeroONE) 2023 」の登壇セッションをもとに編集しております。

登壇者紹介

吉村 武 氏

株式会社バンダイナムコネクサス
データ戦略部 データストラテジーオフィス データインフラストラテジーセクション セクション長

生田目 裕太

株式会社primeNumber
カスタマーサクセス本部 Senior Manager

バンダイナムコグループのIP軸戦略を支えるデータ戦略の三層構造

社名のネクサス(つながり)が表す通り、バンダイナムコグループが展開する多彩なエンターテインメント事業をつなげ、そしてIPと消費者をつなげることを目的とする株式会社バンダイナムコネクサス(以下、ネクサス社)。オンラインゲームやプラットフォーム、IPファン向けサービスの開発や運営、そして分析を手掛けており、バンダイナムコグループ全体で掲げる「IP軸戦略」、その戦略を支える構想である「データユニバース」に取り組んでいます。

セッションの冒頭、「IP軸戦略」と「データユニバース」について、吉村氏にご紹介いただきました。

株式会社バンダイナムコネクサス 吉村 武 氏

「『IP軸戦略』とは、IPそれぞれが持つ世界観や特性を生かし、最適なタイミングで、最適な商品を届けるための戦略であるとグループでは定義しています。この戦略を実現する方法はさまざまですが、なかでも重要だと認識しているのがデータ戦略であり、弊社では『データユニバース』を掲げ、戦略的に推進しています。

このデータユニバースは、以下の3層構造で成り立っています。

  1. データ利活用:用途に応じてデータを分析、イベント企画や商品開発に活用
  2. データ可視化:膨大なデータを分類・整理。IPナレッジを蓄積する仕組み作り
  3. データ収集:ビッグデータを集積するための安全性が高い器の構築

一番実現したいのがデータ利活用なのですが、まずは土台となる基盤作りのためのデータ収集が必要になります。本セッションでは、バンダイナムコネクサス社でデータ基盤を担当している立場から、IP価値の最大化を実現するデータマネジメントについてご紹介いたします」(吉村氏)

「データユニバース」を実行するグループ各社と、データマネジメント体制を機能させるポイント

バンダイナムコグループは「データユニバース」を実行するにあたり、役割ごとにグループ各社を「① ガバナンス組織」「② データ組織」「③ グループ会社」の3つの組織に分けてデータマネジメント体制を構築しています。それぞれの組織の役割と、体制を機能させるためのポイントについて、吉村氏に解説していただきました。

① ガバナンス組織

「バンダイナムコグループが担うガバナンス組織は、データユニバースのビジョンを策定し、実行を管理・監督する役割です。このガバナンス組織がより実効性があるガバナンスを実現するためには2つのポイントがあります。

1つ目は、セキュリティ・プライバシー基準の標準化です。各社ごとにセキュリティ基準が設けられていましたが、この基準をデータ基盤に落とし込むことが重要でした。セキュリティ基準をゼロから考えるのはとても大変なことです。そのため、まずはデータ基盤に当てはめて標準化すると社員が楽になり、結果ガバナンスの実効性を保つことができています。

2つ目は、ビジョン策定と落とし込みです。バンダイナムコグループでは、データユニバースという大きなビジョンを打ち出し、最初は社員がみな理解して業務に取り組んでいます。しかし、こうしたビジョンは時間が経つにつれその意識が薄れてしまうことがあります。そうした状況を回避するため、定期的な進捗確認のタイミングで、個々のプロジェクトのベクトルを合わせていくことになりました」(吉村氏)

② データ組織

「データユニバースのビジョンを実現するため、データマネジメントの実行がミッションの役割です。このデータ組織は、さらにデータマネジメントチームと開発チームの2つに分かれます。

まずデータマネジメントチームの確立には2つのポイントがあります。1つ目のポイントが、データ品質基準を策定して担保すること。たとえば、「クエリを投げても待たされないシステムを24時間365日使える」といった基準を設け、この基準を満たすために取り組むことでデータ品質を担保していきます。

2つ目のポイントが、ナレッジの集約と標準化です。大きなプロジェクトであるデータユニバースでは、グループ会社が連携して共通化できる部分をナレッジ化していくことが大事になります。このナレッジ化によって、それぞれのグループ会社が同じことを繰り返してしまうことを防ぐことができ、より効率的にプロジェクトを推進することができるのです。

ただこの際、グループ会社にルールを押し付ける形にしてはいけません。私たちの場合、会議体を設けて各グループ会社の担当者に参加してもらい、そこでルールを決めていくことで『自分ごと化』を促しました。各グループ会社を巻き込んだ結果、自ら約束を守る文化を醸成することに成功しています」(吉村氏)

③  開発チームと各グループ会社

「グループ会社は、ドメイン知識を元にデータ組織と連携して、データ基盤の土台を成果に結びつけることが組織の目的です。

そのためのポイントとして、まずイノベーターと取り組むことが挙げられます。会社の中にいるデータ活用に対して先進的な人を見つけ、その人と組むと良いでしょう。どの事業会社も絶対にデータ活用はしているはずです。営業やマーケティング部門で日々データを扱っている人を見つけ、イノベーターとして巻き込むことが重要です。2つ目のポイントが、データ基盤の構築と分析施策を同時に進めることです。「データ基盤をつくる」と聞くと、どうしてもデータを蓄積する箱を作ることだけを考えてしまいがちです。そこでデータ分析施策を同時に実行することで、より実用的なデータ基盤を構築することができます」(吉村氏)

データ基盤アーキテクチャ設計で抑えるべきことと、データを扱う職種ごとの役割

データユニバースを実行する各グループ会社の役割とポイントを俯瞰してお話しいただいたところで、話題は今回のセッションタイトルで触れられている「データマネジメント」を担う「② データ組織」に移りました。

データ組織の中でもデータ基盤を構築するチームは「データマネージャー」「データエンジニア」「データオペレーター」の3つのチームの中から連合軍のように組織されたと、吉村氏は振り返ります。

「データマネージャーが戦略を策定し、要求の定義を行います。その要求を受け、データエンジニアがデータ基盤を設計、実装し、運用までを担います。ここまでの段階でデータウェアハウス層までの構築が完了しているイメージです。

データ分析チームへのつなぎ込みを担当しているのが、データオペレーターという職種です。データ分析者のデータ整備面、つまり分析しやすいデータ構造であるデータマートに加工する役割を担っています」(吉村氏)

3つのチームが構築したデータ基盤の構造が、以下の構成図です。

構成図の左側が各グループ会社から収集する、PostgreSQLやMySQLなどのデータソースを指し、集約されたデータをデータウェアハウスやデータマートといったデータ基盤に蓄積していきます。そこからBIや分析用のツールへデータを流し込み、データ分析チームが活用するという流れです。

コストを抑えつつ多様なデータソースを集約するため、TROCCO®の導入を決定

データ組織の“連合軍”が構築したデータ基盤アーキテクチャの設計で抑えなければならなかった課題を吉村氏は「システム環境やデータソースがグループ会社ごとに全く異なる状況下で、いかにコストを抑えつつ多様なデータソースを集約していくか」だったと語りました。

この課題を解決するためにETLツールの導入を検討した結果、以下の要素を評価いただき、TROCCO®の導入を決定いただきました。

「特にデータエンジニアリング未経験者でも簡単に操作できることがポイントでした。データエンジニアの採用は難しく、データベースの知識を持つアプリケーションエンジニアであっても、戦力化までには1ヶ月ほどかかってしまいます。

しかしTROCCO®を活用した場合、1〜2週間もあれば即戦力化することができました。これは本当に想像よりも短く、しかも既存のデータエンジニアと遜色のないパフォーマンスを出すことが出来たのです。

加えて、実際にサポートを受けて実感した、TROCCO®というサービスの利点を3つまとめました。」(吉村氏)

① サポートの人にデータソースの知識がある

「各グループ会社が使用している、それぞれのシステムをつなぎ込むのはとても大変なことだと感じていたのですが、primeNumber社のサポート担当の方に問い合わせたところ、丁寧に一つひとつ教えていただくことができました。」(吉村氏)

② 並走して調査してくれて、解決に導いてくれる

「さまざまなデータソースがあり、苦労してデータ取り込んでいく中で生まれた疑問点を率直にサポートの方へお伝えすると、TROCCO®が対応しているデータソースか否かに関係なく並走して調べていただき、無事に解決することができました。」(吉村氏)

③ Slackコネクトでいつでも対応してくれる

「社内で使用しているSlackの機能であるSlackコネクトでつながることで、Slack上からご質問することができました。質問についてもおおよそ1時間で回答いただけたこともあり、とても助かりました」(吉村氏)

商品の需要予測や広告予算の最適化。安定したデータ基盤の構築によって得られた成果とは

バンダイナムコグループの各社が協力してデータマネジメント体制を構築し、データエンジニアによる開発やTROCCO®の導入によって、安定したデータ基盤を構築することができました。では、安定したデータ基盤を構築できたことによって、ネクサス社にはどのような変化が起きたのでしょうか。

「弊社にもともと置かれていたサイエンス部門とビジネス部門に加え、エンジニア部門とデータマネジメント部門が新たに設置されました。そこに利用者が安心・安全に使用できるデータ基盤が構築されたことで、今までサイエンス部門の中に留まっていたナレッジがすべての部門に共有され、部門に縛られないコミュニケーション量が増えました。結果、新しい施策がどんどん生み出されるようになり、ビジネスへの貢献度が高まったと感じています」(吉村氏)

安定したデータ基盤の構築によるメリットはネクサス社内の留まらず、バンダイナムコグループ全体のデータ活用にも好影響を与えています。「IP✕データ」で事業成長に貢献した具体的な事例について、それぞれ吉村氏に解説いただきました。

① 商品の需要予測導入で売上・利益増へ

解決した課題:商品の生産決定と生産完了まで数ヶ月のタイムラグがあるため、需要予測を見誤ると過剰在庫や在庫切れといった売上げの損失が起きてしまう

「今回構築したデータ基盤を使ってデータサイエンティストが予測することにより、以前よりも高精度な予測ができるようになりました。さらにポイントなのが、この案件はデータ分析者と、商品の担当者が協業して業務フローを構築したことにあります。データ分析者はあくまで予測までを行い、実際の商品生産の決定と発注は担当者の仕事としたことで、売上げと利益の増加に成功しました」(吉村氏)

②広告予算に対する媒体ごとの効果が最大化する点を予測し、利益に貢献

解決した課題:広告媒体には、顧客獲得効果の初速や持続期間などにそれぞれ特徴があるため、最適な予算配分の広告出稿に悩んでいた

「まず、各広告媒体からデータ基盤へデータを取り込み、販促効果が最大化する予算配分のシミュレーションを行います。その結果を広告担当者に伝える際、弊社では分かりやすくするため、数字だけでなく、グラフ化して提供しました。結果、少ない予算で最大のプロモーション効果が得られるような広告出稿ができています。

広告は予算が投下されると分かりやすく成果が出るため、データ分析と非常に親和性が高いのです。そのため、ぜひ媒体ごとの分析ではなく、媒体を横断しての最適化に取り組んでみてください」(吉村氏)

データ活用の成功事例を横展開し、プロジェクトや部門を超えた企業の文化へ

セッションの最後に、こうした小さな成功事例を積み上げていくためにもイノベーターを巻き込んだ、部門を超えた横展開が重要だと吉村氏は強調します。

「各々の部門において、イノベーターは周りに信頼されています。そのイノベーターが『データ活用でビジネスに良い効果があった』と伝えていくことで、次第にデータ活用に対する理解が広がっていくでしょう。

データ活用をただのプロジェクト単位で終わらせず、『データを活用しないと損だ!』と考える文化を根付かせることが、データ活用の成功の秘訣だと考えています。バンダイナムコグループにとっての『データユニバース』は、こうした文化作りの狙いもあるのです。

私たちのデータ戦略と、それを支えるデータマネジメントのノウハウが、少しでも皆さまのお役に立てれば幸いです」(吉村氏)

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TROCCO® ライター

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