「UNITED ARROWS」「BEAUTY&YOUTH UNITED ARROWS」など数々の有名セレクトショップを運営する株式会社ユナイテッドアローズ(以下、ユナイテッドアローズ社)ではOMO(Online Merges with Offline)戦略の強化に力を入れており、データの活用が課題となっていました。

同社においてデータウェアハウスのクラウド化などデータ基盤の構築と強化に取り組んだ中井 秀氏と、その伴走パートナーである株式会社ジール(以下、ジール社)にご登壇いただき、データ活用についてお話しいただきました。

登壇者紹介

中井 秀 氏

株式会社ユナイテッドアローズ
ITソリューション本部 ITビジネスソリューション部 シニアマネージャー兼EC開発部

高橋 大 氏

株式会社ジール
マルチクラウドデータプラットフォームユニット コンサルタント

薬丸 信也

株式会社primeNumber
カスタマーサクセス本部 Head of Business Development

データを利用する側と管理する側、両方を経験して実感した「データ利用の民主化」をすべき理由

2015年の入社以降、ユナイテッドアローズ社でデジタルマーケティング部のCRM運用やデータ分析を経験したのち、IT部門にてAI開発やデータマネジメントといったデータ活用施策を担当している中井 秀氏。中井氏が同社のデータ基盤の構築と強化に取り組むにあたって、データを利用する側とデータを管理する側、両方の業務経験から「データ利用の民主化」を実現することを目的に掲げたそうです。

「私がデジタルマーケティングを担当していた頃、利用したいデータがあっても許可が得られず、なかなか自分の意思で活用できないという苦い経験がありました。そこで自分自身でDWHを構築し、自分がやりたいマーケティング施策を実行したところ、想像以上に素早く施策を実現できたのです。

そこから、会社全体の施策スピードを向上させるには、社員が容易にデータ基盤へアクセスでき、蓄積したデータを簡単に加工して利用できる環境、つまり『データ利用の民主化』を実現する必要があると考えました。

しかし、いざITソリューション本部に異動してみると、ユナイテッドアローズ社のIT部門は非常に責任範囲が広く、データの運用も大変で、なかなか新しい施策のためのデータ活用に対応できないという状況であると知ったのです。

そこでITソリューション本部が持つ権限をユーザーに移譲することができれば、データを利用する現場のユーザーはデータを活用してやりたい施策ができるようになり、データを管理する側のITソリューション本部では運用リソースを抑えることができ、責任範囲も縮小され、お互いにハッピーになれるのではないかと考えました。

こうした『データ利用の民主化』をコンセプトに、データ基盤の刷新に取り組んでいくことになったのです」(中井氏)

今回の取り組み以前のデータ基盤は、分析に特化したDWHであったためデータがオープンではなく、ITソリューション部による統制の強さが課題でした。そのため、デジタルマーケティング部といったユーザー側の用途が想定されておらず、外からアクセスすることも、データを持ち出すこともできなかったとのこと。加えて、企業規模に見合わない規模とスペックのDWHを使っていたため、過剰なコストも課題に挙げられました。

データ基盤の堅実な保守運用と柔軟な対応を評価し、ジール社との取り組みを決定

「データ利用の民主化」を実現するためには、データ基盤の開発と保守運用を任せられるSIerの存在が必要不可欠であったと中井氏は話します。協力パートナーであるSIerの選定について、当時重視していた要素についてお伺いしました。

「SIerの選定で私たちが重要視していたポイントは2つあります。1つは堅実な保守運用をお願いできることです。私自身が以前、デジタルマーケティング部時代に独りでDWHの運用をしていた経験上、堅実な運用の重要さ、つまり安定してデータを活用できることは社内のデータに対する信用を高めるために重要だと考えています。

もう1つのポイントは、データ基盤の開発において柔軟に対応いただけることです。たとえば、導入するツールがあらかじめ決まっておらず、私たちが求めるデータ基盤に必要なものを選定いただけることが大事でした。

この2つの条件を満たし、さらに2021年当時、Snowflakeで早くから実績を積んでいたジール社は非常に魅力的なベンダーだと感じ、正式にご依頼させていただきました」(中井氏)

ジールの高橋氏は、「私は2018年にジール社に入社し、現在はSnowflakeの導入だけでなく、導入から運用まで幅広く支援しています。ユナイテッドアローズ社とは、Snowflakeの設計部分をリードしながら、TROCCO®の運用を一緒に進めさせていただく、といった取り組みをさせていただきました。

お取り組みにあたってはデータ基盤の構築がゴールなのではなく、その先の『データ利用の民主化』にあることを常に念頭に置きながら、将来を見据えた提案、支援をさせていただくことを大事にしています」と話しました。

「データ利用の民主化」のため、ツールを導入して管理側の運用コストを抑える必要があった

ユナイテッドアローズ社からのご相談を受け、ジール社からは「現在直面している課題」と「データ活用を開始してから発生するであろう将来の課題」という2つの軸を考慮したご提案がありました。

「現在の課題」とは、管理コストやデータ基盤の性能に関するもの、「将来の課題」とはより幅広いデータ分析を求められるようになった場合に備えて、幅広いデータをDWHに接続できる手段を用意しておくことでした。 最終的に、ジール社からユナイテッドアローズ社に対して、クラウドデータウェアハウスのSnowflakeと、ETLツールとしてTROCCO®をご紹介、ご導入いただきました。

「『データ利用の民主化』をゴールに据えたとき、より多くのユーザーにデータ基盤を利用していただくには、管理側の運用コストをできるだけ抑える必要があります。今回導入したSnowflakeであれば、ウェアハウスと呼ばれるコンピュートリソースを分けることで、ユーザー間で互いのリソースを気にしないで利用することができます。

そして、ETLツールにTROCCO®を利用することで、現在はSnowflake内にないデータも、ローコードのGUIを使い、ユーザー自身で簡単にデータをつなぎこめると考えました。

データレイクされた、つまり溜め込んだデータを、Snowflakeの中に流していくのはITソリューション本部の方々に担当いただき、その上で各ユーザーがTROCCO®を利用して自分自身で加工できるという土壌を作っていける、そして足りないデータも自分自身で集めてこられるという体制をユナイテッドアローズ社にご提案し、支援させていただきました」(高橋氏)

マーケティングやECなど、積極的なユーザーが増加。TROCCO®でユーザー自身がデータを活用できるように

2022年4月にデータ基盤の開発がスタートし、約8ヶ月ほどの開発期間を経て同年12月にリリースしました。2022年の段階では、データを集めてきたり、DWHを外部からアクセスできるようにしたりと、「不可能」だったことを「可能」にすることに注力したといいます。

しかしその一方で、「不可能」を「可能」にしてもユーザーの負担が大きすぎるという反省を受け、現在は「難しい」を「簡単」にすることで、「誰か」ではなくユーザーである「じぶん」がデータ活用できる状況を実現するために取り組んでいると、中井氏は話します。

「2023年11月現在、データ基盤を構築してまだ数ヶ月のため、手探りでデータ活用に取り組むユーザーがいる一方で、デジタルマーケティング部やEC部門など、データ活用に積極的な部署からの利用は、日を追うごとに増えている実感があります。

しっかり受け入れられた要因として、今回導入したTROCCO®によってSQLが書けないユーザーでも、ワークフローやスケジュールを設定できることが挙げられます。

また、TROCCO®の活用頻度が高い場面として、Snowflakeから外部へデータを流すケースや、Snowflakeの中でデータマートを作成する処理が挙げられます」(中井氏)

継続的にデータを活用していくため、データの改善のスピードとリテラシー向上に取り組むべき

現在のユナイテッドアローズ社のデータ基盤の状況について「今後、ますますデータ活用を進めてく段階に差しかかっている」と、データ基盤開発を支援した高橋氏は考えています。今後のデータ基盤の活用と起こりうる課題、そしてその課題に対してどのような対応を想定しているのでしょうか。

「今後起きうる課題として、データ基盤側とユーザー側の2つがあると考えています。まずデータ基盤側の課題として、長くデータを活用していくなかでデータの中身が変わってしまったり、ユーザーが使いたいデータが足りなくなってしまったり、といった状況が考えられます。その結果、ユーザーがデータ基盤から離れてしまうことを防ぐため、ユーザー側の要望を受けてデータを新しくしていき、そのスピードを上げていくべきです。

一方のユーザー側の課題としては、データ分析の知識やデータを扱う上での技術がどんどん必要になってくるところだと考えています。

こうした知識や技術は業務の中ではなかなか培われることがない部分であり、会社全体を見た時に『できる人』と『できない人』にレベル差が出てきてしまうのです。そこでまずは、一部のチームや部署にフォーカスして知識と技術を向上させ、そこから組織全体に広げていくべきだと思います」(高橋氏)

データ活用の成功体験を積み上げるため、失敗までを許容できる環境が必要

「データ利用の民主化」の実現することを目的に掲げ、SnowflakeとTROCCO®を導入、活用することで実現したデータ基盤の構築。本講演の最後に、これからデータ基盤の構築とデータ活用を検討している企業の担当者へのメッセージをいただきました。

「ユナイテッドアローズ社のデータ活用は、まだまだ成功しているとは言えません。これからも多くの失敗を経験すると思いますが、重要なのはそこから少しずつ成功体験を積み上げていくことです。

会社全体の経営判断として、こうしたデータ活用の失敗までを許容できるように働きかけていくことが、事業会社のデータ活用担当者として心血を注ぐべきポイントのひとつだと考えています」(中井氏)

「現在も多くの事業会社の方々から、データ活用のご相談をいただいております。今回のユナイテッドアローズ社とのお取り組みのように、一緒に伴走しながらデータ活用の環境づくりに貢献できればと思いますので、何かお困りごとがあればぜひご相談ください。

また、私個人としてSnowflakeとTROCCO®は、データ活用の幅が広がり、ユーザーのニーズにどんどん応えられる、大きな可能性を感じる組み合わせだと感じています。まだ弊社としても、この組み合わせをもっと広めていきたいと考えています」(高橋氏)

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TROCCO® ライター

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