昨今のビジネス環境では、日々増大するデータをいかに有効活用できるかで、市場で頭一つ抜ける強い組織を形作れるかが決まると言っても過言ではありません。

そのためにデータ基盤の導入に励む企業も多いですが、導入したのみでその後の実使用ができず、基盤が組織に浸透せずに徒労に終わってしまう場合も多いのではないでしょうか。

2023年12月4日に開催されたセミナーでは、導入後のデータ基盤を組織に浸透させデータの民主化を実現するコツについてご説明しました。

実運用に耐えうるダッシュボードを作りたい、非エンジニアであってもデータ活用ができる組織を目指したいという方はぜひご確認ください。

当日のセミナーはこちらからご覧いただけます。

※本イベントレポートの内容は2023年12月当時のものです。trocco®の利用や接続オプション等の利用の詳細について知りたい方はprimeNumberまでお問い合わせください。
https://trocco.io/inquiry/new

登壇者情報

永田 ゆかり 氏

データビズラボ株式会社 代表取締役

データビズラボ株式会社代表取締役。アクセンチュア、楽天、KPMGなどを経て独立。データ分析&視覚化、データマネジメント/データガバナンス、クラウドデータ分析基盤に係るデータコンサルティングを提供。シンガポール、香港、UKなどでの海外講演、登壇、金融専門誌、メディアや新聞への寄稿多数。早稲田大学政経学部卒。「データ分析のリアル」という書籍の中で、データマネジメント実践のためのテクニックや、データ分析基盤導入のコツなどについてまとめており、データ活用を実践する際に出てくる疑問について回答している。本書では、データマネジメントにおける課題や争点は常に変化していくため、多角的な目線でデータ活用における全体的な疑問を網羅している。

吉田 俊太 氏

データビズラボ株式会社 コンサルタント

データビズラボ株式会社でコンサルタントとして従事。BigQuery、Amazon Redshiftなどのデータ基盤構築業務、TableauなどのBIダッシュボード構築、データマネジメント業務などで顧客支援を担当。データビズラボ株式会社のメディアではデータ基盤の用語説明などの記事を担当する。

坂本 龍輝

株式会社primeNumber アカウント エグゼクティブ

株式会社primeNumberにて、パートナーアライアンスのアカウントエグゼクティブとして従事。前職ではvertical SaaSにてフィールドセールスとして施工管理システム・基幹システムの販売に従事。現在は、業種業界問わず、データ活用基盤の構築を支援。「あらゆるデータを、ビジネスの力に変える」というミッションの元、企業のデータ活用促進に邁進している。

データドリブンな組織を作るためのデータ基盤構築と文化のコラボレーションのコツについて

最初に、データビズラボ株式会社 代表取締役CEOの永田様よりお話しいただきました。

永田氏:「今日は、データドリブンな組織を作るためのデータ基盤構築と文化のコラボレーションのコツについてお話しします。結論から言うと、データドリブンな組織を作るためにはデータ基盤の活用など、データ活用ができる環境を整備することが重要だという旨をお伝えします。」

永田氏:「今日お伝えしたいことは3点あります。

1点目は、データ基盤を導入するだけではデータドリブンな組織作りは完成せず、実使用までに行き着かない場合が多いということです。

2点目は、データ基盤を導入後、プロジェクトが抱える不可視的な要素にも戦略的に基盤を活用して効率的に運用に乗せることで、お金・時間・労力などのコストやリソースを削減できるということです。企業により抱えている課題は異なるので、正解がないことについて考え抜き結論を出すことが肝要になりますが、その考え抜く際のポイントについて今回はお話しします。

同業者や他社の成功事例を表面的に採用したところで、データ基盤構築は成功しません。成功するには、多くの不可視的要素の定義をして実使用につなげていくことが必要です。しかしながら、前例を知ることも必要ですので、実際のお客様の活用事例についても後ほどご説明します。今回のスピーチが自社がデータ基盤を運用する際のアイデアの想起となれば幸いです。

3点目に、導入や分析手法など可視化しやすい部分のみならず、既存の社内の文化や思想など具体的なアプローチをすることが、データ文化醸成の戦略的な活動メソッドになるということです。データ基盤導入や分析に関する手法は可視化・言語化しやすいですが、実際にデータ活用を日常的にできる組織として文化が醸成されるかは、既存の社内の文化や思想次第です。

データカルチャーという言葉は解釈の幅の広い言葉ですが、データ活用して意思決定を行うための環境や態度、行動の総体と表現することができます。」

文化醸成が必要な理由

永田氏:「なぜ文化醸成が必要か説明します。データ基盤導入やBIの導入などは、ツールやソリューションの導入などをするため具体性が強く分かりやすいです。その一方で、その導入が実運用に乗らない原因として、文化醸成や暗黙的に共有されているナレッジなどの言語化できない共通認識があることが考えられます。」

永田氏:「技術的な基盤導入では活用ができない理由は4点あります。

1点目は、多くのプロジェクトでは、技術的なエンジニアリング以外にも成功可否の要素があるということです。よくあるパターンとして、プロジェクトの進行を考える際には、BIツールの導入やデータ基盤の導入など、技術的なエンジニアリングに目を向けられがちです。しかし、予算や文化醸成ができるか、組織内でナレッジの共有ができるか、などのほかの成功可否を決める要素があります。

2点目は、上記の要素が可視化されておらず、不可視的な状態になっているままのケースが多いということが挙げられます。このような不可視化的要素は見過ごされたまま、技術的なエンジニアリングのみに注力しがちであることも原因と言えます。

3点目は、そのような不可視的要素を考慮に入れることができたプロジェクトが成功している割合が多いということです。実際に、プロジェクト成功のケース・不成功のケースをそれぞれ比較すると、前述した不可視的要素に気を配れたかどうかが鍵となっている場合も多いです。

4点目に、プロジェクトが失敗に終わる原因は1つではなく、非常に多様であることが挙げられます。たとえば、

  • データ基盤を支える体制がない
  • 担当者が退職した
  • ユーザーから見てシステムが使いづらい
  • コミュニケーションコストがかかりすぎる
  • 必要なデータへのアクセスがスムーズでない

など、実に多様な原因が挙げられます。

永田氏:「データ基盤導入の際の文化醸成のアプローチは大別すると下記の5つの要素が挙げられます。技術的な要素は可視化しやすいので予算を振りやすく投資もされやすいですが、これら5つの要素は可視化しづらいため予算が投入されづらいです。

1点目に、教育・トレーニングという要素が挙げられます。ワークショップ実施以外にも、データ基盤の使い方のマニュアル作成や動画作成もここに含まれます。

2点目に、データの共有の促進という要素があります。これは、データ民主化という観点で文化醸成を考えた際に発生するタスクです。データのアクセシビリティを考慮すること、社内全体のスキルの底上げなども含まれます。

3点目に、データの品質を確保できるかということが挙げられます。これは、データマネジメント的な観点でのデータの品質が担保できるかということです。

4点目に、ツール環境を管理するシステムが用意できるかという要素があります。これは、ユーザーからデータの扱い方についての質問があった際に、一次データをどのように照会するかのフローを作れるかということです。

5点目に、PDCAサイクルを回せるかという要素があります。前述した4つの業務をリストアップし、ファシリテートして改善点の洗い出しや、優先順位をつける作業を行うということです。」

永田氏:「データエンジニアリングというタスクと言うと、要件定義・戦略設定〜浸透の高度化というタスクに分けられます。このようなタスクの場合は手をつけやすく、また、直感的に理解しやすいです。」

永田氏:「実際の例で言うと、このように BigQueryでデータ可視化をしてデータ構造を定義する、などのタスクになります。」

予算獲得の際の留意点

永田氏:「そして、大変重要な予算という要素についてお話しします。前述したデータエンジニアリングのタスクは予算がつきやすいですが、文化醸成をすると考えた際には、先ほどお話しした5つの要素にどのように割り振りするかが焦点となります。大別すると、下記の6つの要素を考慮するとよいでしょう。

1つ目に、文化醸成に関する予算は基盤導入と同じぐらい(50%〜100%)かけることが挙げられます。できれば、データ基盤導入と同予算ぐらい立てられるのが理想です。この予算は中長期的に影響するため、最初の段階で取れればさらによいでしょう。理由としては、もしプロジェクトが失敗に終わった後には予算がつきにくく投資判断しづらい傾向にあるためです。予算獲得後、ワークショップや研修などにより教育・トレーニングなどの前述した5要素についてコストを割いていきます。

2つ目に、導入だけで終わらずに継続可能かという要素があります。データ基盤を導入した初年度の予算以外にも、その後のデータの管理コストなどの予算を割けるか判断することは非常に重要なポイントです。金銭以外にも時間や社内体制などで無理のある見積もりを立ててしまいがちなので、コスト的にもリソース的にも細く長く継続可能かをチェックする必要があります。この工程は、場当たり的に対応してしまいがちですが、大きな額の予算が必要になることも多いです。

そのため、最初にデータ基盤設計をする際に戦略的に考慮した方がよいです。最初に成功事例を小規模でも作っておくことが、その後プロジェクトが継続できるかに影響します。

3点目に、どのような技術を持った人が何名体制で今いるのか、現在のチーム体制を把握することです。たとえば、データマネジメントの担当者とデータアナリストでは必要とされるスキルセットが全く異なります。また、あのポジションに今どんな人がどういるのか、何人いるのかという考慮は今後の採用コスト・教育コストなどに響きます。

4点目に、明確なゴールを設定しておくことです。どこまで目指すか、何をゴールとするか、何年以内で完結させるのかを、ロードマップに加えることも当たり前ですが重要です。

5点目に、現在のデータマネジメント体制・データガバナンスの整備具合を考慮することです。データガバナンスのルール策定ができているか、データ品質のモニタリングはしているか、品質の定義をしているかなどの素因の成熟度が、文化醸成にかかるコストに影響するためです。

6点目に、小規模のプロジェクトの予算幅を考慮するということが挙げられます。小規模プロジェクトの場合、予算幅は数百万円〜数千万円と幅があることが多いです。基盤に数千万円程度かけた場合、その50%をソフト面のコストとして考えるお客様もおられます。また、年間プランとして継続し、月ごとの計画を立てるお客様もいらっしゃいます。このように、お客様によってコストのかけ方はさまざまです。」

データビズラボ株式会社におけるお客様事例

永田氏:「最後に、データビズラボ株式会社におけるお客様事例をご紹介します。」

永田氏:「まず、株式会社ユーザベース様についてです。データ分析基盤構築とデータカルチャーの両輪を重要と捉えられているお客様であり、社内でファシリティーやワークショップ、全社定例などでデータのナレッジ共有をするなど、そういう戦略的にデータ文化醸成に取り組んでいました。」

永田氏:「NTTドコモ様は、戦略的なデータ民主化に取り組まれており、コンテンツ教材の戦略策定に取り組まれており、また、どのレベルでデータを扱える人がどの程度必要なのかについて、戦略的に考えらえていました。」

永田氏:「三井住友海上火災保険様は、分析ツールには従来からユーザーが多数いたものの、高いレベルで扱える人材はほとんどいない、また、ツールを導入しただけではデータ活用はうまくいかない、という課題意識を持たれていました。

そのため、社内でデータ基盤のユーザー会コミュニティを立ち上げ、データの扱い方についてワークショップや勉強会を実施するなど、データ文化醸成に励まれていました。データビズラボ株式会社では都度いただくようなご質問にお答えしるサポートデスクとしての役割を担っています。」

永田氏:「古野電気様では、工場全体のDX化を図るため、ワークショップや社内で研修トレーニング、ツールの導入レクチャーを実施されています。世界的なマーケットシェアを持ってらっしゃるお客様は、管理職の方への研修やワークショップに力を入れている印象があります。文化の醸成のあり方は多種多様ですが、同業界の他社や海外事例を継続的に取り入れることにより、中長期的に影響することをご存じのお客様です。

研修やワークショップなどの具体的な取り組みを紹介しましたが、予算の考え方と組み合わせて、社内で何が有効、お考えいただく材料にしていただけますと幸いです。」

現場視点でデータ活用文化醸成を実現するためのチェックポイントについて

次に、データビズラボ株式会社の吉田様からお話ししていただきました。

吉田氏:「今回は、実際にプロジェクトに入ってる者として、現場視点でデータ活用文化醸成を実現するためのチェックポイントについてお話しします。」

吉田氏:「データ活用文化があるというのは、現場レベルで業務にデータ活用を生かす意識が浸透していることだと考えております。」

吉田氏:「現場レベルというのは、IT/DX推進部門のほかに、営業部やマーケティング部などの各事業部で、一般社員層がデータ活用をする意識が根付いていることと捉えております。

この現場レイヤーで何が課題になっているか、何かできればデータ活用ができるようになるのかについてご説明します。」

データ活用のユースケース設計・提案の概要とコツ

吉田氏:「結論から言うと、データ活用のユースケースを設計・提案することが、データ活用ができる文化醸成のためのポイントとなります。」

吉田氏:「設計・提案するユースケースには2種類あります。

1種類目は、システムにおけるユースケースです。これは、システムを利用して、業務における目的を達成するまでの人とシステムのやり取りのことを指します。人がどのようなデータを入力したら、システムがどういった出力を返し、そのデータを用いて人が何を行うかの一連について表した図のことです。

2種類目は、データ活用におけるユースケースです。これは、データ(ダッシュボードで可視化したデータも含む)を利用して、業務における目的を達成するまでの意図とデータのやり取りを指します。データを利用して業務プロセスの中で人がそのデータどう使うことで、どのような業務の目的を達成していくかを定義することがこれに当たります。」

吉田氏:「たとえば、営業ダッシュボードを作る際に、下記のポイントに留意します。

  • この営業ダッシュボードのデータは誰が入力しているか
  • どのシステムに蓄積されているか
  • そのデータがどのように営業に共有されているか
  • 余った情報はどこに保存されているか
  • このダッシュボードを誰がどのような目的でどれくらいの頻度で使用するのか

吉田氏:「このようなユースケースを作るメリットとしては3つあります。

  • 事業部のメンバーにデータ活用のシーンやメリットを正確に伝えることができる
  • ダッシュボードやデータの機能要求っていうのを正確に定義できる
  • データ活用プロジェクトのPDCAを効果的に回せる

吉田氏:「具体的にどういうシーンで生きてくるかについてご説明します。データ活用促進の担当者であれば経験があると思いますが、ダッシュボードを作成して事業部に連携したところで、実際に利用することがなくただの置物になってしまうこともあることでしょう。これは、業務において事業部の方にどういう使い方ができるのか、事業部の方にどういうメリットがあるのかをイメージさせられていないのが一番の課題だと考えられます。

基本的に事業部の方は非常に多忙なため、データ活用業務に割くリソースがないのが本音だと思います。」

吉田氏:「そのため、そのダッシュボードやデータを使うことでどんなメリットがあり、事業部のどの業務プロセスが改善されるかを、ユースケースを言語化・資料化して説明することで、作りっぱなしではなく実際の利用へつながりやすくなります。」

吉田氏:「また、データ活用を促進する上でのよくある課題として、ダッシュボードに対する要求が際限なく増えるということがあります。ダッシュボードを事業部に共有した際に、あのデータも入れてこのデータを入れて、パフォーマンスを向上させて、読み込み時間を短くしてと、次から次に要求が挙がっていくことが多いです。

そのような要求はできる限り反映させたい一方で、ツールやシステムの機能の制限の関係で、実装するとコストがかかりすぎる恐れがあります。そのコストをかけたところで本当によいダッシュボードができるかと言うことも怪しいところです。こういったことが起こる原因としては、そのダッシュボードやデータ活用に対する機能要件を正確に定義できてないことが考えられます。」

吉田氏:「しかし、このような場合にもユースケースをきちんと言語化しておけば、実使用に耐えうるダッシュボードの機能要件を定義することができます。システムのユースケースとは、そのシステムに求められる機能要件を正確に把握するためにあります。データ活用のユースケースにおいてもそれは当てはまることです。

このダッシュボードに対してどういう品質が求められるのか、この業務プロセスで使われるダッシュボードに対して、どういうデータが必要で、どれぐらいの更新頻度が必要なのかということを、ユースケースを整理することで定義することが可能です。

先ほどの例で言うと、月次の経営会議で使うダッシュボードを作成する場合、経営会議の前に最低月1回更新されていれば問題なく、このダッシュボードの目的を果たせますよね。

ただ、ダッシュボードだけを経営層に見せた際には、リアルタイムでダッシュボードが更新されて欲しいという要望が挙がることが想定されます。しかし、リアルタイムでシステムのデータを反映するダッシュボードを作るには労力が必要であり、作ったところでダッシュボードの挙動が遅くなってしまうおそれがあります。

経営層のニーズを満たすためであれば、月1回の更新でも問題ないという証明をするためにも、ユースケースの定義とは非常に重要な作業になります。」

吉田氏:「それ以外にも、DX推進部門でよくある課題として、ダッシュボードが使われなかったが改善点が分かっていないということ、リッチなダッシュボードを作ったが結局実使用をしなかったということが挙げられます。しかしこれは、実はダッシュボードが業務業務プロセスに適していないということが一番の原因として考えられます。

ダッシュボードが使われない理由はダッシュボードのUIに起因するのではなく、現状の業務プロセスの中で引っかかってる部分があるからです。」

吉田氏:「ダッシュボードがいつ使われるのか、誰が使うのかなどの定義をせずに改善提案をすると、ダッシュボードに新しいデータを入れる、UIを変えるという改善しかできません。しかし、事前にユースケースを整理しておくことで、本質的な課題にアプローチすることができます。

それによって、改善活動も効率的に行えるため、やはりユースケースの定義は重要な工程だと言えます。」

ユースケース定義における3ステップ

吉田氏:「ユースケースを実際に定義するには、基本的には前述した『ヒアリング・課題整理・施策策定』の3ステップが必要です。」

吉田氏:「最初に、データ活用の課題をヒアリングする際には、ユースケースを定義する上での材料を集めるために、事業部の業務プロセスを理解することが必要です。この段階でデータ活用をすることありきでヒアリングすることも多いですが、データ活用の目的は事業部の方々の業務をデータで助けることにあります。

そのため、事業部の業務プロセスを理解して、そこにどのような課題が潜んでいるのかを明らかにする必要があります。そして、業務フローを行うことにより、最終的な施策を決定する際に、具体的な業務プロセスで何を行えばいいのかが可視化され、よいユースケースが作れるようになります。」

吉田氏:「次に、ヒアリングしたものを課題整理する際には、データ活用をするかどうかに関わらず、事業部が抱える課題をすべて洗い出します。原因まですべて書き出してから初めて、データ活用によって解決するか否かを判断します。それにより、意外な課題に対してデータ活用がアプローチできるという発見があり、課題の見落としを回避することができます。」

吉田氏:「最後に、そのように課題整理をすると具体的な施策が浮かんでくるので、施策の優先度を決めて実行に移します。そして、ヒアリングした課題にアプローチする施策が業務プロセスをどう改善できるかを可視化・資料化しユーザーにメリットを説明するとよいでしょう。

しかし、実際にユースケースを定義する作業は難航することもあります。そのため、最初は既存のレポーティングの自動化をするユースケースに取り組むことで、データ活用が現場に浸透しやすくなります。

理由としては、すでに何かしらのデータを使用した業務プロセスが確立されている場合も多いためです。これは、社内の誰かがそのデータを見て意思決定をしているという業務プロセスが既にあるため、そのユースケース自体が間違っていることが少ないということです。

また、レポーティングの自動化は、そのメリットがお客様に伝わりやすいということも理由として挙げられます。具体的には、これまではExcelでデータ集計をしていたため膨大な時間がかかっていたが、BIツールやデータ基盤よって自動でレポーティングされるため、結果として集計時間がゼロになるという分かりやすいメリットがあるため、現場にも浸透しやすいということです。」

まとめ

吉田氏:「まとめると、ユースケースを定義して現場に正しくメリットを伝えることによって、現場でのデータ活用の機会が増えていきます。現場レベルでデータ活用の事例が増えていくと、それが文化になり、データ活用の文化醸成につながります。そのため、ユースケースをぜひ意識していただきたいです。

最後のおまけに、現場目線で言うと、ダッシュボードの品質はできる限り高くした方が、利用につながりやすいという実感があることをご共有いたします。

最終的な納品物の品質を高く保つことは大前提ですが、サンプル品や一次成果物はラフに作る方は多いのではないでしょうか。しかし、最初に事業部に共有する段階で、データ活用のメリットを体感してもらえるレベルのものを持っていく必要があると私は考えています。

事業部門の方は多忙なのでダッシュボードの画面だけ見せられても、それが自分たちの業務にどう生きるかのイメージはしづらいです。そのため、サンプル品の段階であっても、業務プロセスをどのように改善できるのか具体的な事例を見せて説明すると、実運用に結びつきやすいです。」

データエンジニアリングとデータの民主化について&企業のデータ利活用を促すtrocco®の機能

さいごに、株式会社primeNumberから、データエンジニアリングとデータの民主化についてと、企業のデータ利活用を促すtrocco®の機能についてお話ししました。

データエンジニアリング力とデータの民主化とは

坂本:「まず、データエンジニアリング力についてご説明します。意図する形でデータ収集を行うには、エンジニアのリソースが必要になることと、組織でデータ活用推進をするにあたってマネジメントをしていく必要があります。データエンジニアリング力は非常に重要なスキルとなりますが、最も浸透させづらいスキルでもあります。

今回、ご参加されている方にはビジネスサイドの方・エンジニアサイドの方の両方がおられます。組織のデータ活用の旗振り役として推進している方もいらっしゃれば、これから始めていこうという方もいらっしゃると考えております。

そのため、皆様に伝わるよう、データ活用組織の文化を根付かせるために最も重要であるデータエンジニアリングスキルについて深掘りをしていく前にデータエンジニアリングの概要についてお話しします。」

坂本:「まず、営業データにおいて、たとえば契約者の基本情報や予定契約日、契約する金額などがExcelデータで用意されているとした場合、このデータが見える化されて、そして事業のインサイトに繋げる。大きく分けるとこの3ステップがあります。

この場合、契約に至らなかった原因や現状の事業のウィークポイント、現状の課題屁の対策などの事業を成長させるため分析を行い、より高度なアプローチや仮説立て/検証ができる組織にすることが非常に重要と言えます。

このようなデータ活用を推進できる強い組織となっていくためには、データパイプラインの管理が肝要な工程となりますが、この管理は難しいポイントでもあります。」

坂本:「たとえば、先ほどお見せした営業データを分析するには『このデータ断面は加工前として管理しなければいけないのか』ということや、『アカウントIDの中に実際にはユーザーIDが含まれているかもしれない』など、多くのことについて考慮する必要があります。

これらを1つ1つプログラミングコードを書いて整えていくことも多いです。また、抜け漏れチェックや重複チェックの工程、データの欠損の確認など、多くの作業が発生します。

しかも、ほかのマーケティングデータや人事データなどの社内にあるデータソースが多ければ多いほど、データエンジニアの負担が増大していくため、この負担がデータドリブンな組織作りのボトルネックとなっている状態です。」

坂本:「しかし、このような作業に集中していくことはデータ文化を醸成していくことの本質ではありません。」

坂本:「あくまでデータ活用というのは、データを根拠にした意思決定をすることであり、データ収集やデータ整形は目的ではなく手段でしかありません。そのため、

  • データ活用のメソッドを理解してデータマネジメントを行うこと
  • 組織から求められる費用やリスクを最小化すること
  • 事業の成長に伴う拡張性について考慮すること
  • それらを元に事業の意思決定をすること

以上の4つが本来あるべき形です。

データ活用を手段としたデータエンジニアリング力なのか、あるいはデータ活用を目的としたデータエンジニアリングなのかという観点を持つことが、データの民主化や組織でのデータ文化の醸成に欠かせないのです。」

坂本:「そのため、事業を推進する立場の方々は、

  • どうやって勝ち筋を見つけられるか
  • どんな確率を上げていく方法があるのか

など、いかに組織構築の再現性を持たせられるかが、データ文化の醸成においての重要な要素となります。」

前述した通り、データ収集をすることやデータ整形をすることは、精度の高い意思決定をするための手段であって、その先に事業目標があるのです。」

坂本:「本日のテーマでもあるデータ文化の醸成といった観点は、強いデータ組織を目指すにおいてとても重要な視点であり、欠かせません。

データ文化の醸成について突き詰めるとデータの民主化という考え方に行きつきます。データの民主化について要素分解をすると、

  • データ活用ができる”場面”があること
  • データ活用ができる”組織(ヒト)のスキル”が高いこと
  • データ活用ができる”環境”があること

が挙げられます。

たとえば、データ活用ができる”場面”というのは、データ収集をすること自体が目的になっていて本来の目的を見失っているのではないか、ということです。

データ活用ができる”組織(ヒト)”のスキルというのは、データマネジメントがそもそもできているか、組織としての統制を取れているか、データ収集ができても意思決定をすることやインサイトを得ることができるスキルがあるのか、ということが挙げられます。

データ活用ができる”環境”があることというのは、意思決定をするために素早く活用できる環境があるか、データの品質を担保したりデータガバナンスを確立できる体制になっているか、ということが挙げられます

ここで重要なポイントが、データ活用ツールを導入するだけでは問題は解決しないということです。」

坂本:「1つ目に、スキルも環境も備わっているがデータを活用できる場面がない場合、そもそも自社で分析したいデータがないこともあり得ます。」

坂本:「2つ目に、場面も環境もあるがスキルがない場合では、研修の実施や社内コミュニティの立ち上げ、ワークショップの開催をしがちですが、メンターとなるポジションのエンジニアを用意するといいでしょう。」

坂本:「3つ目に、場面もスキルもあるが環境がない場合は、システム部門に依頼しないと必要なデータが出てこない、部門間のデータが分断されてサイロ化ているなどの要因が業務効率を落としていることが多いです。

代表的な課題としてはこの3つが挙げられますが、実際の課題はグラデーションになっていることが多いため、自社がどのような傾向にあるのかを分析することをおすすめします。」

坂本:「そして、

  • データ収集に課題があるのか
  • データを可視化する工程に課題があるのか
  • データを根拠にした意思決定ができないのか
  • データの活用サイクルの低速化が課題であるのか

など、自社の目的であったり組織の状態に合わせて、自社が今どのステップにいるかを確認するとよいでしょう。それらの課題を踏まえて自社の目的を定め、データ活用について考えていく機会が必要です。」

企業のデータ利活用を促すtrocco®の特徴

最後に、企業のデータ利活用を促すtrocco®の特徴について坂本から説明をしました。

坂本:「まずtrocco®には3つのコンセプトがあります。

  • 素早く安全にあらゆるデータから価値を得られること
  • 低い学習コストで皆様に触っていただけること
  • 長期的な運用であったりそれが可能なデータ基盤構築できること

これらのコンセプトを元に、業務の負荷を削減することで本来あるべき業務に注力できる環境づくりを実現することをtrocco®は目指しています。」

坂本:「trocco®には3つのコアとなる機能があります。

まずは、簡単にデータパイプラインを構築できる機能です。転送元・転送先の情報を入力した後の、プレビューを見ながらデータの加工をする際には、シンプルなUIで操作できることと、テンプレートETL機能でテンプレート登録ができます。

次に、データマートの作成機能です。これは、ユーザーに合わせて転送モードを選択可能です。また、テーブル作成の工数を削減できます。

3つ目が、ジョブの登録によりデータ活用における一連の作業の自動化ができる機能です。

これらの一連の作業を完全自動化することができるため、プログラミングの工数不要で一元管理ができ、また自動実行したかが管理ができます。

その他、オプションとしてデータカタログ機能があります。組織の拡張性や、データ文化の醸成に目を向けた際にしたいデータマネジメントもtrocco®はカバーしています。」

trocco®のユースケース

坂本:「今回は、Sansan株式会社様、ピップ株式会社様の事例を用いてご紹介いたします。」

坂本:「まずは、Sansan株式会社様の事例です。Sansan株式会社様は、リード数は増えているものの実態のある商談に至る数はなく、数字と事業の実態が乖離してきたことにより事業の全体像が把握できなくなっていること、意思決定が遅れていること、内製化を検討していることなどから、trocco®をご活用いただきました。」

坂本:「trocco®を導入したことによって、

  • 全体像を把握しながらデータ分析と次のアクションを取ることが可能になった
  • あと営業における作業効率が向上した
  • 顧客の検討状況ニーズに合った動線設計ができた

といった効果がありました。」

坂本:「次に、ピップ株式会社様についてです。この企業様では、ITリテラシーが低い方がいる環境やエンジニアがいない環境から、データ分析基盤構築をスモールスタートで、お1人で進めるしかなかった状態でした。」

坂本:「そのような環境下でtrocco®を導入した効果として、スモールスタートで1人でデジタル施策強化の基盤が構築できたということが挙げられます。」

坂本:「今回ご紹介した2社に関してはあくまでも一例ですが、ほかにもtrocco®が寄与できることはさまざまあります。多様なフェーズの目的がある中で、素早く安全にあらゆるデータから価値を得られること、低い学習コストで長期的な運用ができることがtrocco®の特徴ですので、ぜひとも皆様のサポートになりますと幸いです。

データ活用をする文化を醸成するためには、データ活用をする機会を増やすこと、データ活用に必要なスキルを磨ける環境を整備することが大切です。そしてそれにはtroccoがサポートできる部分が数多くありますので、ぜひ一度お気軽にご相談ください。」

本記事のまとめ

本セミナーでは、2023年12月4日に開催されたセミナーでは、導入後のデータ基盤を組織に浸透させデータの民主化を実現するコツについてご説明しました。

冒頭でも解説したとおり、昨今のビジネス環境では、日々増大するデータをいかに有効活用できるかで、市場で頭一つ抜ける強い組織を形作れるかが決まると言っても過言ではありません。

データ基盤の導入は、その足掛かりになる施策です。しかし、いざ導入したのみでその後の実使用ができず、基盤が組織に浸透できないといったケースも多く見られます。

データ基盤の導入や活用についてお悩みの方は、是非この記事を参考にしていただければ幸いです。

また、データ分析ツール「trocco®」を活用することで、非エンジニアにもデータ活用しやすい環境を作ることができます。データ活用の文化を社内に浸透させたいとお考えであれば、是非導入をご検討ください。

データ基盤の総合支援サービス「trocco®」は、データの統合や分析をサポートする多機能なツールです。データの連携・整備・運用を効率的に進めていきたいとお考えの方や、プロダクトにご興味のある方は以下よりぜひ資料をご覧ください。

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