2010年代以降、SNSの普及やクラウドサービスの発展にともなって流通するデータの量は、爆発的に増加しました。

数TB(テラバイト、1TB = 1,000GB)や数PB(ペタバイト、1PB = 1,000TB)など、文字通り桁違いのデータ量のやり取りが当たり前の時代です。

世界中で膨大なデータ(ビッグデータ)への関心が高まっており、日本でもビッグデータのビジネスへの活用が期待されています。しかしビッグデータのもつ概念は広く、いまひとつ掴みどころがないワードと感じる方も多いのではないでしょうか。

ビッグデータの活用にはまずその基本的な要素から押さえる必要があります。本記事でビッグデータの基本や事例、取り組み方を押さえ、ビジネスに活かしていきましょう。

ビッグデータとは

ビッグデータとは?

ビッグデータとは、海外のデータエンジニアリング分野で生まれた膨大な量のデータを指すワードです。ただし「何GB以上のデータならビッグデータ」など、明確な量的基準はありません。

従来データの活用はExcelやGoogleスプレッドシートなどの表計算ソフト上で行われてきましたが、ビッグデータは表計算ソフトでは処理できないほどのデータ量です。

分析・活用するには、データの高速処理に長けたデータエンジニアリングツールが必要になります。そのため強いて具体例を挙げるなら、「データの分析にExcel以上のツールを要するデータ」がビッグデータといえるかもしれません。

総務省による定義

日本では総務省が平成29年版(2017年)情報通信白書にてビッグデータに触れており、ビッグデータを以下の4つの観点から分類しています。

オープンデータ 政府や地方公共団体が保有する公開情報
知のデジタル化 企業が保有するノウハウをデジタル化したデータ
M2M(Machine to Machine)データ IoT機器から収集されるセンシングデータ(製造途中の製品の重量データなど)
パーソナルデータ いわゆる個人情報にくわえ、個人と関係性が見出される広範囲の情報

※参照:総務省|平成29年版情報通信白書

上記のデータを組み合わせることで、「従来は想定し得なかった新たな課題解決のためのソリューションの実現につなげる」また「そのソリューションの実現において異なる領域のプレーヤーが連携したイノベーションの実現が期待される」としています。

ビッグデータを構成する要素

ビッグデータは3つのVをもつと言われています。

すでに述べたデータ量(Volume)もそのひとつです。以下の要素など、人の手作業では把握しきれないほど発達しているのがビッグデータの特徴です。

Volume(データ量) Excelでは処理できないほど大きなデータであること
Variety(データの質) 従来の二次元データ(Excelなどで扱う、行と列からなるデータ)にくわえ、画像・動画データ、音声データ、システムログデータなど、多様な形式のデータを含むこと
Velocity(データの頻度・速度) 絶えずデータが生成され、データベースが高い頻度で更新されること

身近なサービスからわかる!ビッグデータが活用されている事例

3つのVをもつビッグデータは、すでにあなたの身近で活用されています。

本章ではとくに身近な事例を3つ取り上げ、3つのVの観点からビッグデータに対する理解を深めるとともに、ビッグデータがどのように活用されているかを理解しましょう。

ここでは、交通系ICカード、コンビニエンスストア、天気予報アプリを取り上げ、ビッグデータの活用例を紹介します。

交通系ICカード

交通系ICカード(Suica・PASMO)は、カードに埋め込まれたICチップを利用してデータのやり取りをしています。

金額や用途のデータをリアルタイムで送受信することで、事前に運賃を計算しておかなくとも瞬時に運賃を決済でき、ユーザーの利便性を向上させました。また切符としての用途にくわえタッチ決済への活用も実現しました。

鉄道会社側にもメリットがあるため、個々人の電車の利用状況をパーソナルデータとして保管・分析してマーケティングや人流の把握に活用できます。

私たちの行動自体がデータになり、日常生活に活用されていくもっとも身近なビッグデータの事例のひとつといえるでしょう。

コンビニエンスストア

コンビニエンスストア(以下、コンビニ)ではレジでの決済時に性別、年齢などの属性情報もPOSデータとして記録し、ユーザーの嗜好や売上の分析が行われてきました。

POSデータの活用は広く知られるものですが、現在はコンビニ各社でさらなるデータ活用の試みとしてインストア分析がスタートしています。

インストア分析では、消費者が「店内をどのように移動したか」「どの棚の前で立ち止まったか」「結局商品を購入したのか」など、多様な行動をデータ化します。

データ化した行動を分析し、消費者の目線データの分析から子供向け商品は子供の目線に合わせて棚の下の方に配置するなど、より消費者が商品を購買しやすいよう商品の配置や店内のレイアウトを工夫する試みが行われています。

顧客の属性情報とともに、消費者の行動までもデータ化するのは、データの質(形式)を問わないビッグデータ活用の好例といえます。

天気予報アプリ

過去のデータから将来のイベントを予測するデータ活用は、元となるデータが多いほど精度の高い予測が可能です。そのような特性のデータを活用する天気予報アプリは、ビッグデータと相性がよい活用法の典型的な例です。

天気予報のアプリは、気温・湿度など天候に影響を与える要素のデータから天気予報を提供しています。これまでに各国の気象庁などで記録されてきた膨大なデータが、高精度の天気の予報を実現しています。

近年は膨大なデータでもリアルタイムな送受信が可能になり、単なる晴れ・雨・曇りだけではなく、雨雲の接近を知らせる雨雲レーダーなどデータを活かした機能を提供するに至りました。

気温や湿度などの一見使いみちのない身近なデータも、ビッグデータ級のデータ量を集めることでさまざまな活用が期待できます。

ビッグデータを活用するメリット

以上、ビッグデータが活用されている事例を3つ紹介しました。

各事例、特徴のあるデータの活用方法です。いずれの事例もビッグデータの活用を支えているのは以下の2つです。

  • 膨大なデータ量
  • 大きなデータもリアルタイムに送受信できるシステム

この2つはビッグデータの活用において、もっとも重要な要素になります。

前述で紹介した事例はBtoC領域での活用でしたが、BtoB領域においてもビッグデータの活用は可能です。業界・業種を問わず以下の3つのメリットが得られます。

  • リアルタイムでデータを確認・分析できる
  • 顧客ニーズの正確な分析とクオリティが高い施策や事業の創出・提供ができる
  • 将来起こりうる変化を予測して施策を実行できる

それぞれを詳しく解説していきます。

リアルタイムでデータを確認・分析できる

技術の進歩によって、ヒトやモノの流れをリアルタイムでデータ化し、ビジネスに活用できるようになりました。

たとえばAmazonなどのECサービスでは、ユーザーがクリックした商品のデータを即座に送受信し、リアルタイムでユーザーへのレコメンドを変化させています。

それと同時に、データはすぐさま中枢のアルゴリズムに取り込まれ、ほかのユーザーのレコメンドにも影響を与えています。

「ユーザーA」の購買・行動データを、ユーザーAと属性が似ている「ユーザーB」のレコメンドにリアルタイムで変化させているイメージです。

そのほかにも膨大な広告データをリアルタイムで「見える化」し、

  • 成果の低い媒体から早期に撤退する
  • 製造ライン上の製品のうち、重さのデータをリアルタイムで収集してエラーの発生を即座に検知する

など、無駄のない効率的なビジネスにはビッグデータのリアルタイム分析が重要です。

顧客ニーズの正確な分析とクオリティが高い施策や事業の創出・提供ができる

膨大な顧客データの分析により顧客の行動に影響を与える要素を推定したモデルが構築できるようになりました。

たとえばSNSマーケティングには、ソーシャルメディアを活用する消費者の購買行動を表した「SIPSモデル」があります。SIPSモデルは消費者の購買行動は以下の4つのプロセスに整理されており、各プロセスでのユーザーの行動を分析することで、顧客のニーズを把握しやすくなります。

  • Sympathize(共感する)
  • Identify(特定する)
  • Participate(参加する)
  • Share&Spread(共有・拡散する)

正確な分析結果を得られれば、ユーザーの共感を得て拡散されやすいキャンペーンを打つことができるでしょう。

先述のインストア分析のように顧客の行動を多面的にデータ化することで、同様に顧客ニーズを詳細に把握できます。無意識の行動をデータ化することで潜在的なニーズを捉えることがポイントです。

顧客行動に紐づいたデータの量が増え、また取得できるデータの質も向上したことで、顧客ニーズを正確に分析し、新たなビジネスチャンスに活用できる点もビッグデータの分析ならではといえます。

将来起こりうる変化を予測して施策を実行できる

膨大な過去のデータから、将来起こりうるイベントを高い精度で予測できるのもビッグデータの活用メリットです。

たとえばスーパーやコンビニなどの小売業では直近の天気をイベントと捉えます。晴れて暑くなりそうであれば冷たいジュースの仕入れ量を増やし、反対に寒くなりそうなら温かいコーヒーの仕入れを減らす調整をしています。雨が予報されている日にコンビニの店頭に傘がたくさん並んでいるのを見たことがあるという人も多いでしょう。

イベントは過去のデータの分析から得られますが、現在のデータを集中的に分析することでユーザーの行動トレンドの予測も可能です。

近年はSNSも発達し、ユーザーのニーズをオープンなデータとして取得しやすくなりました。膨大なデータの中から頻繁に現れるキーワードを分析し、予測されるトレンドを刺激するような施策を打つことで他社に対して先手を取ることが可能です。

今後のビッグデータの活用を見据えて企業はどのように行動するべき?

ビジネスにおけるビッグデータの可能性を認識しつつも、一方でどのように活用すればいいか、何から始めればいいかがわからない方もいるのではないでしょうか。

ビッグデータをうまく活用していくためには、同業他社の活用事例を参考にして後手に回らないことが重要です。しかしビジネス上の大きな価値を生み出すには、他社と異なる活用を模索して、オリジナルなインサイト(気づき)を得る必要があります。

そのためにもまずはビッグデータ活用の基本的なステップを理解し、データを活用していくための基盤を整えることが有効です。

どのようなデータを収集して活用していくのか目的・ビジョンの明確化

自社が抱える課題をベースにしてデータ分析の目的を明確にするのが大切です。

  • 課題を解決するためにデータからどのようなインサイト(気づき)を得たいのか
  • その活用にはどのようなデータが必要になりそうか

などのビジョンを明確にしていきましょう。

まずは自社の課題を分析します。たとえば、自社サービスに対するネガティブな評価の分析が課題のケースで考えてみます。ユーザーのネガティブな評価が表れてくるようなデータを収集・分析して潜在的にチャーン(解約)リスクがあるユーザーを特定することを目的とします。

次にこの目的を達成するのに必要なデータを検討します。もっともわかりやすいのはサービスの利用時間・頻度のデータかもしれません。ユーザーごとに利用状況を細かくウォッチし、分析することでサービスから離れつつあるユーザーを早期にフォローできるようになるだろうとプランを立てます。

また、必要なデータをすでに収集しているデータに限定せず、必要に応じて新たなデータを収集することも検討しましょう。

この取り組みには、顧客のデータを分析するための基盤が必要です。基盤を運用し、顧客にフォローをするメンバーは誰か決める必要もあるなど、ビッグデータの活用は大規模なものになるため、データ活用全体のビジョンも事前に検討しておくことも大切です。

データに強い人材の育成・採用

大規模なデータを処理するには、データエンジニアリングの知見を持った人材が欠かせません。

ビッグデータの活用を目指してデータエンジニア人材を積極的に採用したいところですが、データエンジニア人材は需要に対して絶対数が少なく、採用が難航する可能性が高いです。

後述する社内勉強会や、外部から講師を招いてのワークショップなどを通じて、社内でデータエンジニア人材を育成することも検討し、データの扱いに強みをもつ人材を確保していきましょう。

データに対する興味・関心を向上させる勉強会の取り組み

データを活用することのメリット、ビッグデータが持つビジネスへの可能性を認識できないままでは、せっかくデータを活用できるようわかりやすい分析結果を整えても現場で活かされない可能性があります。

データエンジニア人材の育成とともに、非エンジニア人材のデータ活用をすすめる勉強会などの取り組みも重要です。

  • 専門書の輪読会
  • 外部講師によるセミナー(ワークショップ)
  • 社内エンジニアによるデータ活用のデモンストレーション

具体的には上記のような取り組みが有効です。

くわえて、ビッグデータを用いるような高度なデータ活用でなくとも、基本的なデータ活用のノウハウであればきちんと共有することで非エンジニア人材でもデータ活用が実現できます。

全社的なデータ活用の推進には、非エンジニア人材へのアプローチも欠かせないことを押さえておきましょう。

ビッグデータの活用の仕方に困ったら外部パートナーに相談するのも一つの手段

データの活用は課題ベースで考え、必要に応じて新しくデータを取得することも検討すべきと説明しました。

しかし自社のデータ基盤にビッグデータ級のデータを取り入れて活用するには、データの収集手段やデータの管理が課題となり、データ活用のハードルが高くなりがちです。

データを集める労力、管理コストの前にいつまで経ってもデータ活用が進まず、データ活用のプロジェクト自体が頓挫してしまうリスクがあります。

自社でのデータ活用に限界を感じた際には、外部のサポートを受けることも手段のひとつです。

株式会社primeNumberはデータ分析基盤を構築、運用をサポートするサービスTROCCO®を提供しており、パートナーとしてTROCCO®を導入した各企業様のデータ分析をサポートしています。

株式会社ギブリー様が提供するチャットボット型マーケティングツール「SYNALIO」にはユーザーのWeb行動ログデータと機械学習が活用されていますが、データの運用基盤にはTROCCO®のWeb行動ログSDKとデータ転送(ETL)機能を使用しています。

primeNumberがもつビッグデータの活用ノウハウを活かし、膨大なWeb行動ログを自動で収集、活用できる基盤構築に成功しました。

近年は非エンジニア人材にも扱いやすいデータエンジニアリングサービスが多く登場しています。エンジニア人材の育成と同時にこれらサービスの導入も検討してはいかがでしょうか。

まとめ

本記事では、多くの企業で導入されているビッグデータの概要や、活用事例を解説しました。

データ関連のIT技術はいまも進歩の途中です。数百万円規模の投資が必要だった数百GB単位のデータベースも、クラウドサービスによってより大きなものを容易に導入できるようになりました。

今後ますますビッグデータの取り扱いは容易になり、活用も一般的になっていくと予想されています。

他社に先駆け、ビッグデータを活用したビジネスを展開したい方はぜひ検討してみてはいかがでしょうか。

また株式会社ギブリーの事例で説明したように外部のサポートに頼ることも有効です。とくにデータエンジニアリングサービスを提供するベンダーはツールのノウハウにくわえデータ活用のノウハウも蓄積しており、強力なパートナーになってくれます。

TROCCO®は、ETL/データ転送・データマート生成・ジョブ管理・データガバナンスなどのデータエンジニアリング領域をカバーした、分析基盤構築・運用の支援SaaSです。TROCCO®について詳しく知りたいという方は、以下より資料をご覧ください。

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